ラカイン州におけるロヒンギャに対する非人道的で冷酷な処遇、処置が国際的な非難の対象となるとともに、アウン・サン・スー・チーが行動しないことについて批判と落胆が広がっています。8月25日の事件について、彼女は「ラカイン州の平和と調和を築こうとする人達の努力を損なうための計算された企てだ」と武装勢力を非難する一方、それは「残酷な兵士」による「残虐行為」から身を守るためだという武装勢力の主張については語ろうとしませんでした。
彼女は依然として大衆には人気があるようです。しかし、ミャンマー国内でも彼女を観察する人々の間では彼女は変わった、あるいは腰が引けていると受け取る向きがあるらしいです。打ち解けないと見る人もいます。軍政と対峙していた時代には大衆に物事をあれ程明確に話したのに、黙り込んでいるというわけです。その説明は様々で彼女は不可能なことに立ち向かう悲劇のヒロインだというもの、軍に弱みを握られた隠れた権威主義者だというものもありますが、要するに、軍との関係で彼女は民主主義や人権のアジェンダを推進し得る立場にないというのが最も一般的な説明のようです。
昨年8月、スー・チーはラカイン州の問題の永続的な解決の方途について諮問するため、コフィー・アナン元国連事務総長を委員長とする9名のパネルを組織しました。8月24日、このパネルが報告書を提出しました。この報告は、ロヒンギャに国籍を拒否している1982年の市民法を見直すこと、ロヒンギャに課せられている移動制限(教育、医療へのアクセスを阻害している)を解除すること、12万人のロヒンギャが収容されている悲惨な避難民キャンプを撤去し、元の住所に帰還せしめること、など多数の勧告を行い、勧告が早急に実行されない場合には暴力が続くと警告しています。
スー・チーは国際社会の批判に対して煙幕を張るためだけにこのパネルを組織したわけでもないでしょうから、何とか解決への道筋を着けたいとは思っているのかも知れません。しかし、勧告されていることの実行には大変な政治力を要します。ロヒンギャとラカイン(仏教徒)との対立は憎悪であり根深いです。中央政府に対する信頼は厚くありません。とても楽観的にはなれません。彼女に対する欧米の失望と落胆は彼女に余りに多くを期待したこと、彼女の政治力を買い被ったこと、の反動でもあるでしょう。
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