2024年4月30日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月29日

沖縄を見捨てた
検察と政府の判断

 既に多くの場面で触れられていることだが、日本の尖閣諸島に対する実効支配は、どの国の管轄でもなかった1895年に「先占」の論理で確立されて以後、米国琉球政府期を含めて一貫しており、1970年頃に東シナ海の大陸棚に石油資源があることが発覚するまで中華民国・人民共和国政府は如何なる抗弁もしなかった。そもそも日本の伊藤博文は、琉球=沖縄の帰属問題が日清関係を揺るがして間もない1880年、宮古・八重山諸島の領有権と引き替えに欧米並みの清国内地通商権を得ようとする「分島・改約」案を李鴻章に示しているのだが、李鴻章は「日本を自国に深く引き入れるのは得策ではない」と判断して拒否している。もし李鴻章がこの案を受け入れていれば、今頃宮古・八重山は中国あるいは台湾領になっていた可能性が高く、石垣に付随する尖閣諸島も論じるまでもなく中国の主権下にあるはずであろう。したがって、中国の批判の矛先は日本ではなくただ李鴻章にのみ向けられるべきである。

 しかし中国ナショナリズムでは「強くなれば如何なる失地回復も可能である」という論理をとるので、尖閣諸島のみならず、かつて明と清に朝貢していた沖縄全体を日本から奪還すべきだという議論が当たり前のように語られていることに注意しなければならない。尖閣で日本側が折れれば次は沖縄各地も、というのは既にネット上で喧しく唱えられているところであり、今回の決定は沖縄の安全や伝統的な利益を検察(東京の官邸?)の一存で完全に見捨てたことを意味する。

日米同盟の耐久性を
試しにかかる中国

 このような、日本の国家主権の根本を揺るがす問題について、民主党政権は今後どのように説明するのだろうか? 最近米国の有力者から「尖閣は日米安保の範囲内である」という言質をとり、かつ菅・オバマ首脳会談において日米の緊密な連携による中国問題への注視が確認されたことから、中国に対する一応の圧力・デモンストレーションは成立したと見なしたのであろうか? 既に鳩山政権が日米関係を破壊した以上、今後実際に普天間問題を前進させるとともに様々な協力関係を充実させ、米国と沖縄双方の期待感を満足させなければ(今回沖縄、とくに那覇市議会は中国に対して強く反発した)、「第一列島線」を越えて西太平洋での自由な活動を実現し、日本の安全保障を骨抜きにしようとする中国軍に簡単に破られる可能性が高い。今春の沖縄近海における自衛隊と中国軍との一触即発の事態は、日米関係が鳩山政権によって最悪の状況に陥っている中、日米安保・自衛隊がどの程度機能しているかを中国側が小手調べしたものであると解釈できるが、今後も菅・オバマ間で確認された「緊密な連携」が機能しているのか否かを中国軍が繰り返し試すことになるだろう。


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