2024年5月5日(日)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2010年9月29日

中国の主張に正当性
を与えた日本の対応

 いっぽう中国側の視点から今回の事件をみると、かりに船長が起訴され、執行猶予がついて釈放されたとした場合でも、判決が確定して国外退去させられた船長を中国が空港で迎えること自体、中国としては尖閣諸島に対する日本の揺るぎなき実効支配の現実を完全に認めたことになる。したがって、判決の確定はそのまま、領土問題・国家主権をめぐる「核心利益」の問題(未だ東シナ海はそのリストに入っていないが、早晩書き加えられることになろう)においては如何なる妥協もしないという中国外交の完全な敗北である。それだけに、今回の日本側の一方的不戦敗は中国にとって「勝利」だったということになる。「この島・海域が国際的な領土紛争の対象である」ということを、ちょうど国連の場で国際的に印象づけただけでも十分効果があるし、日本側が国家主権を貫徹させず「超法規的措置」をとったこと自体が中国の主権の主張に正当性を与えたことにもなる。

 また、もし無条件釈放でなければ、中国共産党・政府は、日頃から共産党に不満を持ちつつも完全に発言を封じられている一般庶民からの、「愛国無罪」の猛烈な反政府活動に直面したに違いない。「我が国は日米によって国力の東への拡大を抑えられている」と漠然と思っている多くの中国人は、突破口を開いた今般の中国共産党・政府に対して快哉を感じていることだろう。そのような気分こそ、軍国主義を涵養させる最大の要因であることは世界史が教えるところだが、余り過度に走ると中国の国際的立場は急激に悪化しかねない。ゆっくりと、確実に、太平洋の西側を勢力圏として、米国とパワーを分け合うのが中国の国家目標なのであろうが、何事も手順を踏まなければならないと中国共産党・政府は考えているのだろう。

なりふり構わない
圧力をかけられるのがオチ

 では、日本と自国民のあいだで板挟みになった中国共産党は今後どう出るのだろうか? そして日中関係はどうなるのか。筆者の私見では、残念ながら明るい展望は描きようもない。

 2004・05年に激化したいわゆる靖国・歴史認識・日本の国連常任理事国入り問題に伴う「日本帝国主義打倒」事件は、せいぜい日本の政治家が靖国神社に行くのみであり、中国の国家主権そのものが傷ついたわけではない。また、中国と日本のGDPにもまだ開きがあったし、リーマン・ショックは起こっておらず、日米関係も強固であった。したがって、「反日愛国」の手前、政治的には日中関係を冷却化させても、日本との実質的な経済関係によって実利を取る方針は変わらず、多少のブレーキはかかったとしても日本企業が中国に進出し、各地の地方政府がそれを歓迎するという流れは変わらなかった。これを一般的に「政冷経熱」という。


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