そこで、今後もし日中の政府間関係が冷却化し、経済関係も下降線をたどるとしても、民間の交流そのものまで制限されずに相互に利益を与え続けることができれば、清=徳川モデルの現代拡大版と呼びうる秩序が出来上がり、両国関係はそれなりに「安定」するのかも知れない。とくに、日本側からこれまでもたらされた高品質な製品や大衆文化はかなりの程度中国社会を変え、中国の人々の対日観を複雑なものにしているが、その曖昧な複雑さこそが新たな契機を呼ぶかも知れないのである。日本としても、いっそう中国(あるいは国際情勢一般)の内実を知り、日本から情報やメッセージを発して意思疎通を強める必要に迫られることになる。それがひいては内向きで沈滞した日本社会の質を変えることにもつながるのかも知れない。
このようにあらゆる可能性を考えたうえで、危機だからこそ「戦略的互恵関係」を真摯に求めるのであれば、それも悪いことではなかろう。それは「中国と仲良くしなければならない」という教科書的な「友好親善」ではなく、敵意や野心を拒みつつ、過度の期待を戒めつつ、したたかに実益を取る戦略的互恵であることが切に望まれる。
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◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信社外信部記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
◆更新 : 毎週水曜
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