エコノミスト誌は、サウジとイランの関係改善を示す例を列挙しています。
このうちサウジとイラクとの関係改善については、9月22日付の本欄『中東の戦略地図に影響?サウジとイラクの関係改善』でも取り上げましたが、エコノミスト誌はそこで取り上げられたサウジ外相のイラク訪問、イラクの内相と扇動的な聖職者サドルのサウジ訪問の他に、サウジのムハンマド皇太子が、1)イラクのアバディ首相を招待したこと、2)自らの腹心をバグダッドに派遣し、情報共有に関する合意を締結したこと、3)イラクの貿易団を招聘したこと、を報じています。さらにサウジはイラク南部のシーア派の聖都、ナジャフに領事館を開設する計画とのことです。
そのうえムハンマド皇太子は、シリアの反政府スンニ派への支援を止め、イランとの代理戦争ともいわれる北イエメンについてもより和解的姿勢を示し、取引を望んでいる兆候が見られるといいます。
これらの動きを見ると、サウジとイランとの関係改善は散発的な現象とは思えません。サウジとイランの関係改善の動きのイニシアチブはいずれもサウジが取っているようです。これはイエメン内戦への介入や、カタールの孤立化など、サウジの強硬策が行き詰っており、サウジとして活路を見出したいということかもしれません。あるいはエコノミスト誌の言うように、サウジが湾岸諸国とアラビア半島で自由裁量権を持つ代わりに、シリアを含む中東の北部についてはイランの優位を認めるという「大取引」を考えているのかもしれません。
今回の動きのイニチアチブを取っているのがムハンマド皇太子であることに注目すべきです。ムハンマド皇太子は、従来の慣習にとらわれない思い切った政策を推進する指導者で、サウジの石油依存からの脱却を目指した国家改造計画「ビジョン2030」が代表的な例です。サウジのイランとの関係、スンニ派とシーア派の関係についても、サウジとイランがスンニ派、シーア派の盟主として中東での覇権を争ってきた宿敵であるという伝統に必ずしもとらわれない発想をしているのかもしれません。
しかし、ムハンマド皇太子の指導力をもってしても、サウジとイランの関係の重みを考えれば、意味のある関係改善が一朝一夕に実現するとは想像し難いです。エコノミスト誌は解説記事のタイトルを“Enemies no more?”としましたが、?マークは、関係改善の行方が現時点で想定できないことを適切に示していると思われます。
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