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2010年10月6日

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中西輝政 (なかにし・てるまさ)

京都大学名誉教授

1947年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。ケンブリッジ大学大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院・人間環境学研究科教授。2012年4月より京都大学名誉教授に。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。近著に『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』(PHP)がある。

 経済界も自民党の派閥と一緒になって、自社が工場進出をしている中国とは揉めないよう日本の外交に裏から圧力を加えてきたのです。それが表面化した例として、小泉内閣が靖国問題で取りざたされた時期、当時の経団連が「靖国参拝はやめろ」とさかんに政府を突き上げたこともありました。

 つまり、これまで日本の政治家と経済界は、中国に対して、国益を重んじたまともな外交をさせないように、つねに抑え込む働きをしてきたのです。中国はこれまで、こうした構図をさんざん見せられてきたので、今回は、日本の経済界に悲鳴をあげさせようとしてレアアースの対日輸出ストップやフジタ社員の拘束にまで踏み切り、必ず経済界が日本政府を突き上げて日本は屈服する、というシナリオをもって臨んできているのです。

 今回の出来事は、長年そうした、危うい対中外交をくり返し「水かさ」が増していたのに、そのことに誰も気づかず、ついに堤防が決壊したようなものです。

 逆説的な言い方になりますが、民主党政権にはこれまでの利権がらみで日本を抑え込むシナリオが通じませんでした。しかし今回の尖閣問題で、民主党にはムキ出しの恫喝がよく効くことがわかりました。つまり、自民党ならばもっと早い段階で中国の意を迎えていたのに、民主党には中国の思惑が通じなかった。だから、中国はあれほど強硬な恫喝をくり出し、どんどんエスカレートしたのだろうと思います。おそらく中国は、今後は民主党の中に、いわゆる「親中利権派」の議員を増やしてゆこうとするでしょう。

外交・安保を立て直すため、
日本はもう一度国づくりを

 こうした中国の強硬な姿勢に対峙し、外交・安全保障政策を立て直す上で、具体的な議論の手前にいくつかの根本的な課題があります。

 一つは、憲法9条の問題です。端的に言って、9条がある限り、領土・領海に関する紛争においても日本はつねに指をくわえて中国の横暴を見ているしかないでしょう。国として、その領域を守るためには「軍事的手段が必要であり、また有効である」という国際社会の現実を受け入れなければなりません。日本は、もういいかげんに目覚めるべきです。次いで、対中外交において、日本がここまで弱腰であることの要因として、度の過ぎた自虐的な歴史認識が大きいと思います。戦後教育を受けた世代ではとくに、「かつて中国に侵略戦争をして領土を奪った」という歪んだ認識を引きずっている政治家や国民があまりに多い。しかし少なくとも、21世紀に入っている今日、もっと歴史と現在を分けた対応をしなくてはなりません。

 もう一つは、「外務省」という問題があります。日本の外務省の外交のまずさには定評がありますが、ここでは「チャイナスクール」の弊害ということ以上に、“国益よりも省益第一”という体質の問題が大きいでしょう。外務省にとっては、何があっても「揉め事を起こさせない」ことが大切で、そうしないと官僚としての出世や退職後の利権に響くからです。

 これに加えて霞が関の縦割り構造も問題です。経済外交や情報分析など、外務省以外の省庁が関わる問題では、一応、各省の意見を首相官邸がまとめるということになっている。しかし官邸の指導力は低下の一途ですから、足して2で割るような結論しか出てこなくなるし、声の大きい省や時の官邸に近い省の意見が通りやすくなります。本来は安倍内閣のときに設置が唱えられた日本版NSC(国家安全保障会議)のような、全省庁を統制下におく体系的な国家システムが不可欠です。これと合わせて、首相に直属する独立した国家情報機関がなくてはなりません。外務省だけに外交をゆだねている限り、まともな外交ができないのは当然です。

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