海野素央の Love Trumps Hate

2017年10月17日

»著者プロフィール
著者
閉じる

海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

共和党穏健派はトランプをどうみているのか

 ミネソタ州セントポール在住で、地元の共和党の有力者である白人女性D氏(75)の声も紹介しましょう。アイリッシュ系で共和党穏健派のD氏は、2012年米大統領選挙において共和党候補指名争いを戦ったティム・ポーレンティー前同州知事を支持していました。

 2008年米大統領選挙では、D氏は共和党の大統領候補であったジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州)を自宅に招き、支持獲得のパーティーを開いています。同年セントポールで共和党全国大会が開催された時は、ポール・ライアン下院議員(ウィスコンシン州・現下院議長)ら有力議員を集めて自宅でパーティーを行っています。彼女は上の3人のトランプ信者と比較すると、トランプ大統領に対して温度差がありました。

 「トランプの言動にすべて賛成できませんが、彼は大統領ですから支持しています」

 声のトーンの低さに加えて表情からも、D氏は消極的支持者であることが読み取れました。

 そう語ると、D氏はトランプ大統領に対する懸念について述べました。

 「トランプは、ビジネス感覚で統治しようとしています。彼はプリーバス(元大統領首席補佐官)やバノンを自分で指名したので、彼らを解任できます。しかし、コミー(前連邦捜査局長官)は政府職員なので解任できないはずなのに、ビジネス感覚で解任してしまいました」

 D氏は、トランプ大統領が「ビジネス感覚」で統治をしようとしている点を問題視していました。

 「選挙期間中、クシュナー(大統領上級顧問)がヒラリーの情報を得ようとロシア政府の関係者と面会したのもビジネス感覚で対応したからです。ビジネスマンは、常に取引をすることを考えています。政府職員ならば、警戒して面会しなかったはずです」

 D氏は、クシュナー大統領上級顧問もビジネス感覚でロシア政府の関係者とみられる女性弁護士と面会したとみていました。

 次に、D氏はトランプ大統領のコミュニケーションの仕方について改善が必要だと指摘しました。

 「トランプは指示命令系統を無視しています。最初に大統領首席補佐官とコミュニケーションをとらずに、他の側近とコミュニケーションをとってしまうのです」

 D氏が主張するように、確かにトランプ大統領はホワイトハウスにける職務階層を無視してコミュニケーションをとっています。ところが、トランプ信者は同大統領の型破りが変革をもたらすとみており、非従来型の「トランプ流」を評価しているのです。

 「ツイッターをするのは大統領らしくありません。トランプはツイッターをやめるべきです」

 ワシントンではトランプ大統領が、「ツイッター外交」を展開して、コミュニケーションの「プロトコール」(外交儀礼)に従って行動をしていないという批判があります。同大統領のツイッターの使用に関して、D氏は否定的な見方をしていますが、熱狂的なトランプ信者の1人であるC氏は肯定的に捉えていました。ただメディアに関しては、消極的支持者のD氏もトランプ信者と同様に、トランプ大統領の言動を支持していました。

 「私は、トランプがメディアを『フェイク・ニュース』と呼んでいることにとても満足しています」

 トランプ大統領の「フェイク効果」は、トランプ信者のみならず、共和党穏健派にも出ています。

バノンの中間選挙

 前述しましたが、トランプ支持者に加えて、野党民主党のコノリー議員にもヒアリング調査を実施しましたので、同議員の声も紹介しましょう。同議員は、バノン氏に対して警戒心を持っていました。

 「バノンはホワイトハウスを去って、もっと影響力を持つでしょう。ホワイトハウスではクシュナーやコーン(国家経済会議委員長)といった敵がいて、彼らの言動に注意を払いながら行動をしなければなりませんでした。しかし、バノンは自由に活動ができるようになりました。トランプは支持者をつなげ止めるために、バノンとブライトバート・ニュースにこれからも耳を傾けるでしょう」

 筆者の観察によれば、トランプ大統領とバノン氏は、互いに利用価値が高いとみています。トランプ大統領は、2018年中間選挙においてバノン氏とバノン軍団の力が不可欠です。一方、バノン氏は、共和党穏健派の議員を落とし、議会における保守強硬派の勢力拡大という目標を掲げています。同党穏健派と対立するトランプ大統領と利害が一致するわけです。

 10月中旬、ワシントンで開催された宗教保守派の団体の年次総会で、バノン氏は選挙における戸別訪問による草の根運動の重要性を強調しました。その際、オバマ陣営、保守派の市民運動「ティーパーティー(茶会)」及びキリスト教右派の戸別訪問を成功例として挙げたのです。

 「有権者の家のドアを一軒一軒叩いて、熱く語れ」

 バノン氏は、こう語って参加者を鼓舞しました。彼は、すでに来年の中間選挙のビジョンを描いています。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る