今年10月、ロシアのプーチン大統領が徴兵制を「段階的に廃止する」と発言して話題を呼んだ。徴兵制廃止論はこれまでにも存在したが、現役大統領が廃止の方針に言及したのはこれが初めてとなる。
だが、依然として欧米との軍事的緊張状態にある中で、プーチン大統領がこのようなことを言いだしたのはどうした理由によるものだろうか。また、それは本当に可能なのだろうか。
徴兵制を巡るロシアの事情を探ってみた。
ロシアの徴兵制
まずはロシアにおける徴兵制の現状を簡単に把握しておこう。
ロシアにおいて徴兵義務を有するのは18歳から27歳までのロシア国民男子で、この間に12カ月の兵役に服する義務がある。
徴兵は年に2回、春と秋に行われ、それぞれ約15万人、計約30万人が徴兵される。ロシアの人口は約1億4400万人と日本よりやや多い程度だが、その中から陸上自衛隊の定数(約15万人)の2倍に匹敵する人数を毎年徴兵していることになる。
これに加えてロシア軍には有給で3年間勤務する契約軍人(兵士または下士官待遇)が38万4000人、職業軍人である将校がおよそ20ー22万人勤務している。ロシア国防省はロシア軍の正確な兵力を公表していないが、以上の数字をベースに考えると、総兵力はおよそ90万人強というところであろう。
ロシア軍の定数は約101万人とされているから、およそ90%の充足率ということになる(2016年末の国防省発表では93%)。
「段階的」な廃止に言及
では次に、問題のプーチン発言を検討してみたい。
この発言が出たのは、ワールドスキルズ・ロシアという団体(職業技術を競う国際技能競技大会を開催している非営利団体ワールドスキルズ・インターナショナルのロシア支部)の集会でのことだった。国際技能競技大会は2年に1回開催されており、今年のアブダビ大会に続いて2019年はロシアのカザンでの開催が予定されている。ロシアがワールドスキルズ・インターナショナルに加盟したのは2012年で、今回はロシアでの初開催となることから、プーチン大統領自らが集会に顔を出すことで士気を上げる狙いだったのだと思われる。
この場で、ある参加者から次のような発言が出た。
―――次の技能競技大会の参加者は徴兵を免除してもらえないでしょうか?
―――ここで次世代のチャンピオンを育成することを(徴兵の)代替勤務として認めてもらえないでしょうか?
これに対するプーチン大統領の答えは、代替勤務ではなく、軍の中に個々人の技能を生かす仕組みを作るというものだった。すでに設置されている「学術中隊」(成績優秀な若者が徴兵として勤務しながら学業を続けられる仕組み)だけでなく、今後は若き技術者たちのために研究環境を整えた「テクノ・パーク」も軍内に作るという。
その上で、プーチン大統領は今後、ロシア軍が徴兵制から契約軍人制へと段階的に移行していくと発言。現在は予算の制約で予定通りに進んでいないが、そう長い時間がかからずに解決できるだろうとの見通しを示した。