蜜月の落とし穴
今回のトランプ訪日では、安倍首相とトランプ大統領の蜜月ぶりが過度に強調されました。しかし、両首脳の蜜月には落とし穴が潜んでいることも看過できません。
周知の通り、トランプ政権はロシア疑惑に直面しています。米ワシントン・ポスト紙及びABCニュースが行った共同世論調査(2017年10月30-11月1日)によりますと、トランプ大統領の支持率は37%です。11月8日で大統領選挙に勝利してから一年が経過しましたが、歴代大統領と比較しますとかなり低い数字です。ちなみに、当選から1年後のジョージ・W・ブッシュ元大統領の支持率は89%、バラク・オバマ大統領は57%でした。
さらに同調査をみますと、49%が「トランプ大統領はロシア疑惑に関して罪を犯した」と信じており、「犯していない」の44%を5ポイント上回っています。トランプ大統領の訪日直前に、3人の元側近が起訴されました。次に起訴の可能性が高いのは、捜査対象となっているマイケル・フリン元大統領補佐官(国家安全保障問題担当)でしょう。仮にフリン氏が起訴されると、いよいよ捜査対象の重点が身内のイバンカ氏の夫ジャレット・クシュナー氏及びドナルド・トランプ・ジュニア氏に移ることは必至です。
言うまでもなく、本丸はトランプ大統領です。ロシア疑惑が急展開すれば、同大統領は国民から話題をそらすために、蜜月の日本に通商政策で譲歩を迫ることが予想されます。
同世論調査のトランプ大統領の北朝鮮問題に対する対応についてもみてみましょう。同調査では「全く信頼できない」と「あまり信頼できない」を合計すると67%になり、約7割が信頼していないことになります。それに加えて、「トランプ大統領が強いリーダーか」という質問に対して、約6割が「強いリーダーではない」と回答している点にも注目です。同大統領を衝動的で個人攻撃をする人物だとみているのでしょう。
日米関係は、首脳同士の蜜月だけではありません。当然ですが、草の根の日米関係もあるわけです。
日本は、米国では67%の多数派がトランプ大統領不支持を表明しているという現実にも目を向けなければなりません。エピソードを1つ紹介しましょう。ワシントンで乗車した非白人のタクシー運転手が、筆者に次のように語ったのです。
「おたくの首相は、トランプと仲がいいんだって」
この運転手の声のトーンやニュアンスは、もちろん否定的でした。一般の米国人には、安倍・トランプ両氏の蜜月が奇異に見えるのです。
首脳同士及び政府同士の関係のみを重視していると、草の根レベルの日米関係が見えなくなってくるのです。そこに大きな落とし穴が潜んでいるのです。
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