2024年12月18日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年11月20日

 論説は、イラン核合意(JCPOA)を救うためにEU3(英、仏、独)が成し得ることとして、イランの弾道ミサイル開発、およびイランの中東における振舞いについて、核合意の枠外で協議の場を設けることを提案しています。しかし、核合意を参加国全てが擁護している状況であればまだしも、合意をトランプ大統領が一方的に壊すかも知れないと脅し、イランの経済的利益を損なおうとしている状況では、イランがこの種の協議に応ずるはずがありません。よしんば、その種の協議が成立したとしても、トランプの注文を満たしたことにはなりません。EU3がやれることは、米国議会と密接な連携を保ち、巧く行けば、議会が検討中の立法をもってトランプの注文に応えた体裁をとりつつ、実際にはその注文を骨抜きにし、米国が一方的に制裁を復活するという合意の違反行為をさせないことではないかと思われます。

 トランプが10月13日の演説で指摘した合意の欠陥は次の3つです。(1)10年から15年でイランの核計画に対する制限が解除されるというサンセット条項、(2)不十分な履行監視、(3)ミサイル計画の欠落。

 これらの欠陥を是正せよとのトランプの注文にどう応えるか、コーカー上院外交委員会委員長は、かねてティラーソン国務長官とも協議して来たらしく、立法の考え方を公表しています。それによれば、新たな法律はイランが次の制限を破る場合には、自動的に米国の制裁を復活させるとしています。その趣旨は、イランが核兵器1個を製造し得る核物質を取得する「ブレークアウト」までの時間が一年を切った場合に自動的に制裁を復活させることだと説明されています。具体的には、(1)核計画の制限は無期限に有効とし、米国の制裁に関する限りサンセット条項を排除する、(2)IAEAの査察権限を強化する、(3)イランの高速遠心分離器の研究開発に制限を設ける、などです。

 コーカーは、この立法の狙いは米国のコミットメントに違反することなく核合意の欠陥を是正することにあると説明しています。彼は「我々は核合意の欠陥を克服し、政府を合意にとどまらせる道筋を提供する。それはそもそも最初からそうあるべきであった種類の合意にするものである」とも説明しています。

 今後米議会がどう動くかはまだ分かりません。しかし、コーカーは悪知恵が働く人物のように見えます。コーカーは核合意には反対の立場をとり、核合意を議会の承認を必要としない政治的合意として処理することを望んだオバマ政権と対立しました。しかし、議会が課した制裁を停止することが妥当かの判断に議会の役割を絞る趣旨の立法(イラン核合意検討法)をもってオバマ政権と妥協を遂げました。コーカーは対ロシア制裁をトランプに勝手に解除させないために、その法制化を主導しました。コーカーは最近、「ホワイトハウスはデイケアセンターだ」と揶揄したことがあります。彼はトランプに義理立てする心境にはないのかも知れません。彼であれば、巧みに動いて米国が合意違反しないよう封じ込めることが出来るかも知れません。

  
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