2024年12月6日(金)

中東を読み解く

2017年10月10日

 イラン核合意をめぐり、トランプ米大統領は12日にもイランが「合意の精神を順守していない」と発表する見通しである。新たな制裁や合意からの離脱については議会にゲタを預ける格好になるもようだが、イランが強く反発するのは必至。両国関係は一気に険悪化、対決は新段階に突入する。

公約のための政治的ポーズ

(masterSergeant/iStock)

 イランの核合意は2015年7月、オバマ前政権と、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国の6カ国が調印した。イランの核開発を最低限にまで抑制する代わりに、米欧が科している経済制裁を解除するというのが骨子。米欧や国連などにより、合意順守が確認される一方、経済制裁は昨年1月から解除された。

 しかし、トランプ氏は選挙期間中から合意を「史上最悪の協定であり、破棄する」などと非難を繰り返してきた。合意については、ホワイトハウスが3ヶ月ごとに、イランの合意条項の順守を確認して、議会に報告することが義務付けられており、トランプ氏はこれまでに2回にわたって合意が守られている旨、報告してきた。

 次回の報告期限は10月15日だが、米ワシントン・ポストなどによると。トランプ氏は期限直前の12日にも声明を発表、イランが合意を順守していることを否定し、合意に留まることは米国の国益にかなわない、と表明する見通しになった。しかし、大統領は議会に対して、制裁を復活させることなどの勧告は行わず、厄介事を議会に預ける形だ。

 ホワイトハウスはここ数週間、トランプ氏が公約で掲げた通り、合意を破棄できないかどうか、検討してきた。しかし、イランが基本的に合意を順守していることから、合意条項違反自体を問うことは無理だったようだ。

 このため、イランが弾道ミサイル実験を繰り返し、“テロ集団である”レバノンの武装組織ヒズボラやパレスチナの原理主義組織ハマスを支援している点に着目。これが合意の前文でうたわれている「国際的かつ地域の平和と安全保障に寄与すること」というくだりに反するとし、「合意の精神を順守していない」との判断を下した。ベイルート筋はこれについて「無理筋のこじつけ」と指摘している。

 しかし、マティス国防長官やダンフォード統合参謀本部議長、ティラーソン国務長官、議会指導者らが条件付きながらも、合意を順守する価値があるとして、合意から一方的に離脱することには反対の姿勢を示している。

 こうしたことからトランプ氏はイランによる合意順守を否定しながらも、議会には制裁措置の発動を勧告せず、議会にその後の対応を委ねるという腰の引けた決定になったようだ。

 米紙は「合意を破棄したいトランプ氏と、合意にとどまる価値があるとする政府高官らとの“間を取った”もの」と指摘しているが、トランプ氏が最大の公約の1つを実行した、という政治的ポーズを示す国内向けの戦略にすぎない、との声もある。


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