2024年11月22日(金)

中東を読み解く

2017年10月10日

勢いづくイラン保守強硬派

 しかし、現実問題として、トランプ氏の今回の決定が合意を自動的に破棄することにはならない。議会はトランプ大統領の報告を受け取った後、60日以内に対イラン制裁を復活させるかどうかを決定する必要がある。

 しかし、議会の日程が詰まっている上、来年に中間選挙を控えることもあり、与党共和党指導者らは新たな厄介事を抱えることには消極的だし、民主党は合意の離脱に導くような制裁を復活することには、恐らくほとんどが反対だ。

 このため議会で制裁を復活させる法案が成立する見通しは小さく、トランプ政権に対し、核合意の内容を厳しくするためイランと再交渉するよう、ボールを投げ返すかもしれない。

 今回の大統領のイラン新戦略に関与した当局者らも核合意から即離脱するというよりも、欧州諸国を説得して、核開発の恒久的な停止、厳格な査察、弾道・巡航ミサイル開発の禁止、テロ支援の停止を盛り込んだより厳しい合意に修正するよう、再交渉を開始させることを狙っている。

 しかし、欧州諸国は米国には追随しない姿勢を示しており、米国の思惑通りには運ばないだろう。イランのロウハニ大統領は再交渉には絶対に応じないと言明、核交渉を担当したザリフ外相も米国が離脱すれば、イランも離脱し、核開発を再開すると述べ、強く反発している。

 トランプ大統領のこうした姿勢は核合意に反対してきたイランの保守強硬派を勢いづかせ、ロウハニ大統領ら穏健改革派を窮地に追い込むことになりかねない。権力闘争の道具に利用される恐れが強いということだ。

 すでに保守強硬派が牛耳る司法当局は核交渉に携わった大統領の弟を一時的に逮捕し、このほど、交渉チームの一員だったアブドルラスル・ドリエスファニ氏に対し、スパイ罪で禁固5年の実刑判決を言い渡した。これらは核合意に伴う欧米との関係改善を嫌う保守強硬派の巻き返しと見られている。

 トランプ氏の今回のイラン新戦略は、イランの宿敵であるイスラエルが後押ししているのは間違いないところだが、イラン側の反発次第によっては“イラン危機”が再燃する懸念もあり、トランプ氏の国内向けの政治的ポーズがペルシャ湾の軍事的緊張を高めかねないリスクをはらんでいる。

  
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