また、昨年の大統領選挙でのロシア政府の動きとこれとトランプ陣営の関係、いわゆる「ロシアゲート」についても、「フリン元国家安全保障大統領補佐官を次に訴追するために十分な材料をムーラー特別捜査官陣営は持っている」という報道や、いわゆる『パラダイス文書』の露出、また、トランプ大統領の東南アジア訪問中は、大統領の息子のドナルド・トランプ・ジュニアがウィキリークスと直接コミュニケーションをとっていた事実などが次々と報道された。
このような事件やスキャンダル関連の報道に加え、国内政治ニュースでも、税制改革をめぐる議会の動きや、アラバマ州における連邦上院議員補欠選挙の共和党候補者が過去に未成年者に性的暴行を加えていた事実が明るみにでるなど、共和党にとって不利なニュースが続いている。トランプ大統領のアジア歴訪期間中、アメリカ国内の報道では、これらのニュースが常にトップで報道され、アジア歴訪中のトランプ大統領の動きに関する報道は常に2番手、3番手扱いだったのが実情だ。
「中国にすり寄りすぎだ」「アメリカ・アローン」
ただし、ワシントンの専門家の間では当然、今回のアジア歴訪は非常に注目されていた。これまで北朝鮮問題などをめぐり、ツイッターなどを通じた不規則発言が続き、トランプ大統領の意図に対する疑心暗鬼が高まる中、今回のアジア歴訪は、大統領自身の口から、トランプ政権のアジア太平洋戦略の全容を聞くことができる数少ないチャンスとして捉えられていたからだ。歴訪直前にH・R・マクマスター国家安全保障担当大統領補佐官がプレスに対して行った事前ブリーフィングの中で、アジア訪問中にトランプ大統領が「自由で開かれたインド太平洋地域」構想について語る予定だ、と説明したことも、期待を高めた。
しかし、歴訪が終わった後のトランプ大統領のパフォーマンスに対する評価は非常に厳しい。批判されている点は主に3つある。第一は、訪中時の習近平主席に対する態度だ。北京滞在中、トランプ大統領は習近平主席を「偉大な人間」と評し、同主席に対して「非常に暖かい気持ちを持っている」などと述べた。さらに、米国の貿易赤字最大の相手国が中国であることについての批判も北京では完全に封印。冒頭に紹介した「米国の対中貿易赤字については中国のせいにするつもりはない」という発言まで出た。このような振る舞いが「北朝鮮問題で協力を引き出す必要性があったとはいえ、中国にすり寄りすぎだ」という批判につながっている。
また、歴訪中に数回行った演説はもちろん、習近平主席との米中首脳会談、ドゥテルテ大統領との米比首脳会談など、人権問題を巡り米国内でも批判がある国の指導者との2国間会談でも民主主義や人権など、米国がこれまで推し進めてきた普遍的価値観に対する言及を全くせず、ひたすら自政権がいかに二国間の貿易協定を重視しているかということを強調する姿勢が行き過ぎた「アメリカ・ファースト」として批判され、「アメリカ・ファーストというよりもアメリカ・アローン」と皮肉られている。