安保激変

2017年11月17日

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辰巳由紀 (たつみ・ゆき)

スティムソン・センター日本部長

キヤノングローバル戦略研究所主任研究員。東京生まれ。国際基督教大学卒業後、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院で修士号取得。在米日本大使館専門調査員、戦略国際問題研究所(CSIS)研究員などを経て2008年より現職。2012年よりキヤノングローバル戦略研究所主任研究員を兼任。専門は日本の防衛政策、日本の国内政治、日米安全保障関係、米国の対アジア安全保障政策。

 そして何より、トランプ大統領がベトナム・ダナンで行った「自由で開かれたインド太平洋地域」構想の演説を含め、アジア歴訪日程の中で、一度たりとも、アジア太平洋地域において米国がこれから指導的役割を果たし続けていくことに対する自政権のコミットメントについて明確な発言をしなかったことが「アメリカの力、影響力、アメリカに対する信頼感の葬儀」(マックス・ブート外交評議会主任研究員)「米国は(アジア太平洋)地域で実現し得る最善の貿易枠組みの外側に自らを好んで置いた」(リチャード・ハース元国務省政策企画部長)などの辛辣な批判につながっている。東アジアサミットへの出席を当日、サミットの開始が2時間遅れたことを理由にドタキャンし、早々と帰国の途についたことに対する批判が多いことは言うまでもない。

 歴訪が終了した今、ワシントンの専門家の間では、トランプ大統領のアジア歴訪でのパフォーマンスは、中国のこの地域での影響力のさらなる拡大の目論見をみすみす利してしまった、という雰囲気が漂っている。

日本では楽観的な報道ばかりだが……

 アジア歴訪全体に対する視線がこのように冷淡なため、歴訪の中で、問題発言もなく、比較的首尾よく終了したとみられている訪日についても、トランプ大統領夫妻を礼をつくしてもてなした日本側の努力を、日本側が思うほどトランプ大統領側は感じていないのでは、という趣旨で「安倍総理はトランプ大統領の忠実な引き立て役」と揶揄する報道があったほどだ。

 日本では、今回のアジア歴訪中の訪日と訪韓・訪中を比較して、安倍総理がいかにトランプ大統領と良好な関係を築けているかばかりに注目する報道が目立つ。しかし、現実は、それほど単純ではない。むしろ、トランプ大統領の日本以外の訪問国での言動を見れば、安保問題では「北朝鮮問題で日本の頭越しに中国と合意に至ってしまうのではないか」「日本に事前に連絡なく、北朝鮮と直接交渉を始める決定をしてしまうのでは」「南シナ海問題でも、米国防省の意図とは裏腹に、中国の立場に寛容になるのでは」といった懸念が払しょくされないままであるばかりか、通商・貿易問題についても、少なくともトランプ政権の間は、米国が多国間の通商枠組みに向けた協議には全く参加する意思がないことが明らかになってしまった。

 トランプ氏が大統領選で勝利して以降、トランプ大統領との個人的関係の構築に力を注いでいる日本政府だが、肝心なところで日本側が期待するほど、これまでの努力が報われない可能性が十分にあることを日本は心する必要があるのかもしれない。
 

  
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