西山隆行が読み解くアメリカ社会

2017年11月24日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

 12月の補欠選挙の民主党候補は、中絶容認派でリベラル派のダグ・ジョーンズである。2016年大統領選挙で、ヒラリーでないことを根拠にトランプに投票した人々は、再び同じ理屈でムーアに投票するのだろうか。

 福音派の男性の中では、自らに対する攻撃を宗教戦争と捉えるムーアの動きに呼応し、ムーアを告発した女性たちに疑念を呈する動きがみられている。だが、女性有権者の間では、むしろ女性の告発を信じようとしない人々に対する反発も高まっている。

 11月16日にフォックス・ニュースが発表した世論調査によれば、ジョーンズの支持率がムーアへの支持率を上回っている。ジョーンズの支持率は10月の時点では42%だったのが49%に上がった。投票の意思を示している人の中では42%対50%でジョーンズが優勢である。有権者登録をしている男性についてはムーアに対する支持が9ポイント上回っているものの、有権者登録をしている女性については23ポイント差でジョーンズへの支持が上回っている。

 ただし、福音派の間ではムーアに対する支持が圧倒的に高く、両候補のうちどちらがモラルの点で優れているかを問うた際に、有権者全体では56%対41%でジョーンズが優位に立っているのに対し、福音派は3分の2がムーアと回答している。

 なお、白人有権者は56対37でムーアを支持しているものの、非白人は80対8で72ポイント差をつけてジョーンズが支持されている。

中間選挙、大統領選挙にも影響を及ぼす可能性が

 キリスト教倫理を強調する福音派は、性的スキャンダルを抱えるムーアを支持するのだろうか。強固な共和党の地盤となっているアラバマ州で民主党候補が勝利する可能性はあるのだろうか。来月の上院補欠選挙は、今後のアメリカ政治の行方を占ううえで興味深い。

 この選挙の結果は、2018年の中間選挙や、2020年の大統領選挙にも影響を及ぼす可能性がある。共和党の上院院内総務であるミッチ・マコーネルは、仮にムーアが勝利した場合でも、憲法の規定に従い彼の上院議員資格を剥奪する可能性を提起している。これは、ムーアを推していたバノンの動きなどとも関連して、共和党内の力学を大きく変化させる可能性もある。

 他方、民主党もミネソタ州選出のアル・フランケン上院議員が女性キャスターに無理やりキスを迫ったり体を触ったりしたことが問題となされている。仮にムーアが当選し、その議員資格剥奪の動きが顕在化すると、こちらの問題も注目を集めることになるだろう。

 議員資格を剥奪するためには、上院の倫理委員会での審議を経た後、上院議員の3分の2以上の多数の支持を集めなければならない。この手続きを行うには半年程度の時間を要すると予想されるが、この動きが来年の中間選挙、さらには2020年大統領選挙に大きな影響を及ぼすことは明白である。これらの問題については、選挙結果が明白になった時点で、改めて検討することにしたい。
 

  
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