最も注意が必要なのは「少しなら飲める人」
さて、問題はアセトアルデヒドだ。上に書いたように様々な悪さをするアセトアルデヒドなので、肝臓では可能な限り素早く分解しようとする。この分解能力の強さは、大きく3段階に分類できる。1:すごく強い、2:そこそこ強い、3:きわめて弱いの3つ。もちろんその強さはそのまま「お酒の強さ」に相当する。1の人はいわゆる「酒豪」、3の人は「下戸」、2の人は「多少のお付き合いならできる」人。
この差は、アセトアルデヒドの分解能力の差であり、これは遺伝的に決まっているので、本人ではどうすることもできない。「付き合いが悪い」だの「若いんだから大丈夫」だのといって、無理強いなどしては絶対にいけない。3の人に酒を飲ませると、最悪の場合は死に至る。
3の人は自分も周囲の人も「酒がまったく飲めない」とわかっているので、じつは、それほど大問題には至らないことが多い。問題は2の人だ。周囲の人も自分も「少しは飲める」と思っているので、飲酒機会が多くなる。しかし、体内(肝臓)に入ってきたアセトアルデヒドの処理能力が弱いので、長時間にわたってアセトアルデヒドの悪影響を受けてしまう。
アセトアルデヒドによる悪影響は顔が真っ赤になったり、鼓動が激しくなったり、眠くなったり、吐き気がしたり、肝心な場面で醜態をさらしてしまうという「目に見える」状態だけではない。アセトアルデヒドは飲酒による肝障害の主たる原因だということはほぼ確実だし、変異原性【※2】を持つという、つまり発がん性が疑われるという報告もある。
“お酒に弱いけれども多少なら飲める2の人”に「鍛えれば強くなる」「酒は百薬の長」などといって飲酒を勧めてはいけない。
「お酒に強い人」は大量に呑んでも大丈夫なの?
では、1のお酒に強い人はたくさん飲んでもかまわないのか? お酒に強い人はアセトアルデヒドを分解する能力が強いので、そうでない人と比べるとアセトアルデヒドの悪影響を受けにくいことはたしかだ。しかし、アルコール→アセトアルデヒド→水と炭酸ガスという代謝過程の中で、肝臓は相当に酷使される。大量のアルコールの代謝には大量の肝臓細胞の犠牲を伴う。
健康診断などの血液検査項目に「γ-GTP」がある。「飲みすぎ指標」とも呼ばれている項目だ。γ-GTPは肝細胞の中にある酵素で、アルコールを代謝する際に(肝細胞が壊れて)血液中に出てくる。γ-GTPが高値だということは、たくさんの肝細胞が壊れたという証拠でもある。肝臓のダメージは大きい。
また、はじめの項目で書いたが、大量のアルコールはいちどきには分解できないので、心臓を介して脳の細胞へと至っている。アセトアルデヒドの影響が少ないために頭痛や吐き気がほとんどなかったとしても、脳は酩酊している。外見は酔っているようには見えなくても、運動機能は低下しているし、判断能力も鈍っている。失態を演ずる危険性は、間違いなく増えている。ましてや車の運転などもってのほか! 酒に強いことと酩酊状態にならないことは「別のこと」だと肝に銘じよう。
【※2】 DNAや染色体に変化をもたらす性質。発がん性との関連が強く疑われる。