2024年4月26日(金)

サムライ弁護士の一刀両断

2017年12月9日

強制的に契約させるためには訴訟が必要

 さて、今回の判決で興味深いのは、自宅などにテレビを置く人が受信契約の締結を義務付けられるとして、いつ契約が締結されるのか、いつの分からの受信料を請求できるのかについても明らかにされているということです。

 まず、いつ契約が締結されるのかについては、判決は「NHKが受信契約を締結していない者に対して訴訟を起こし、受信契約の締結を認める判決が確定したとき」としています。

 NHKが契約を拒否する人に対して受信料の支払いを求めるためには、まずはその人に対して訴訟を起こし、「契約が成立した」という内容の判決を確定させなければなりません。つまり、NHKの訪問員が自宅を訪れて「受信契約をしてください」と言っただけでは、受信契約は成立しないということになります。

契約成立時点で、過去に遡って受信料が発生する

 そうすると中には、「NHKが訴訟を起こしてくるまで契約締結を断り続けよう。契約締結を認める判決が出た後で受信料を支払おう」と考える人も出てくるかもしれません。しかし今回の判決によると、そうもいかないようです。

 今回の判決では、NHKがいつの分からの受信料を請求できるのかという点について、「契約が成立したとみなされた時点で、テレビを設置した月に遡って受信料を請求できる」とされているからです。

 これに対して、被告は「過去の受信料の一部は少なくとも時効により支払う必要がなくなっている」とも主張していたのですが、これに対しても最高裁は、「受信料債権の消滅時効は契約成立の時点から進行する」として、過去分の受信料は時効により消滅しないと判断しています。

 例えば、ある人がNHKと20年前に受信契約を締結して、その後ずっと受信料を支払ってこなかったとしましょう。この場合、過去5年より前の受信料は時効により消滅しますので、基本的にNHKは5年分の受信料しか請求できません。

 これに対して、今回の事案のように、テレビを置いてから受信契約をしてこなかった人が訴訟を起こされ、判決の確定で契約締結が認められた場合には、テレビを置いたのが20年前であろうと30年前であろうと、NHKから過去分全ての受信料を請求される可能性があるということになります。

 実は、NHKの受信契約(「日本放送協会放送受信規約」)には、契約者が受信契約を締結したのがいつであっても、テレビを設置した月からの受信料を請求できるということになっています。最高裁の理屈は、“受信契約は判決が確定した時点で初めて成立するのだから、過去分の受信料もその時点で初めて発生する”というもののようです。

 最高裁が、NHKに対して受信契約が成立した時点で、過去に遡って受信料を請求できることを認めたのは、NHKに対して非常に大きなアドバンテージを認めたといえるでしょう。今後予想される展開として、NHKが受信契約を渋る受信者に対して「いま契約をすると過去分の受信料は請求しませんが、契約をしない場合には訴訟を起こして過去分まで全て請求しますよ」といって受信契約を促すということも考えられそうです。


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