また、以後スキャンダル合戦やネガティブ・キャンペーンが繰り広げられる可能性が増大する。上院で二大政党の勢力が拮抗するようになると、法案を通過させることが相対的に困難となる。来年の中間選挙での再選を目指す議員は、立法上の業績をあげることができないとなると、対立候補との差別化を図るために、対立候補のスキャンダルを取り上げたり、ネガティブ・キャンペーンを展開したりする傾向が強まると考えられている。
補欠選挙の前に民主党のアル・フランケン上院議員に性的なスキャンダルが発覚した。フランケンはトランプ大統領を舌鋒鋭く批判していたこともありリベラル派からの支持も高かったが、民主党指導部はフランケンに辞任を迫り、フランケンも辞任した。そもそも、今回のムーアのスキャンダルも、30年以上前に発生したものである。これらのスキャンダルは、二大政党の勢力が拮抗していなければ争点化されなかった可能性もあるかもしれない。政策をめぐる議論ではなくスキャンダルを中心として政治が展開されるようになると、国民の政治不信は一層強まるだろう。
民主党が中間選挙や大統領選挙で勝利できる保証はない
第三に、有権者の分極化傾向がこの選挙に際しても見て取れることを指摘したい。
ムーアの性的スキャンダルが事実だと考えている人と誤りと考えている人はそれぞれ52%と43%と分かれており、前者はジョーズを、後者はムーアを支持していた。このような認識の相違がなぜ生まれたのかについての調査はなされていないが、これらの人々が接触している情報源が異なっていることが理由となっている可能性がある。
近年のアメリカでは、リベラル派はMSNBCを、保守派はFOXニュースを主に視聴するなど、有権者が自らのイデオロギーと合致するメディアを選んで接触する傾向が顕著になっている。また、今日ではSNSを主な情報源とする人が増大しているが、例えばFacebookでは政治色の強い媒体が掲載する記事について「いいね」を押すと、類似した傾向のニュースがより頻繁にフィールドに掲載され、その他のニュースが掲載されにくくなる。このように人々が類似した傾向を示す情報に集中的に接触するようになると、立場の似た、ある意味偏見を共有した人々の中でのみ情報が交換される傾向が強まる。有権者の中でも分極化傾向が強まるとともに、異なる立場をとる人々の間の対立が激化する。今回の選挙結果も、このような傾向の反映だとみることができるだろう。
第四に、来年の中間選挙と2020年の大統領選挙についても、簡単に言及したい。
この選挙の結果を受けて、中間選挙と大統領選挙に向けてトランプ政権と共和党に大打撃となり、民主党に有利な状況が生まれているとする報道も存在するが、そのような評価は過大であろう。
アラバマ州のような保守性が極めて強い州で勝利したことは、民主党にとっては幸運な結果だった。だが、この結果はスキャンダルが発生したが故に起こったものである。出口調査の結果を見ても、ジェンダー、人種、エスニシティ、学歴、宗教などの相違に基づいて有権者の支持態度が異なるという点で、近年の二大政党に対する有権者の投票行動に大きな変化があるわけではない。さらなる調査を待たなければ確たることは言えないが、伝統的には共和党候補に投票していた人々の投票率が低下し、他方黒人を中心とするマイノリティの投票率が上昇したことが今回の選挙結果をもたらしたと考えるのが妥当かもしれない。
この点を考えると、民主党が中間選挙や大統領選挙で勝利できるという保証は全くない。とりわけ、民主党にとって問題なのは、宗教票の行方だろう。今回のような性的なスキャンダルが問題となっている時ですら、保守的なキリスト教徒はムーアに投票した。中絶反対派は民主党候補に投票しなかったのである。民主党が勝利するためには、宗教問題を重視する人々の支持をある程度獲得する必要が出てくるだろう。
今回、民主党支持者はムーアに反対するという一点で団結した結果として、選挙に勝利することができた。しかし、民主党は党として統一したメッセージを出せるような状態にはなっていない。振り返るならば、2016年の大統領選挙でトランプが勝利した背景の一つとして、民主党が人種やジェンダーなどについてのアイデンティティ・ポリティクスの政党となったことに対する保守的な白人の反発があった。トランプ政権が誕生して以降、民主党はその傾向を一層強めている感がある。
このような状況を考えると、来年の中間選挙や2020年の大統領選挙を前にして、共和党のみならず民主党も党の在り方を再検討せねばならないことには変わりがないと言えるだろう。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。