香港といえば、何を思い浮かべるだろうか?
きらびやかなネオンや夜景、林立する高層ビル、おいしい広東料理、ショッピング……。世界中から観光客が集う観光都市には、そんな華やかなイメージがピッタリ合う。
だから、香港が長寿世界一だというと、皆びっくりする。そもそも東京都の半分ほどの面積に800万人もの人口がひしめき、空気もあまりよくない大都会に住む老人が世界一長生きしている、という事実は、どうもピンとこない。香港には「普通の人々が暮らしている」というイメージすら、日本人はあまり持っていないからだろう。
厚生労働省の発表によると、2016年、香港は男女とも平均寿命が世界1位になった。男性は81・32歳、女性は87・34歳で、女性は2年連続1位だ。かつて、女性の平均寿命は日本が世界一だった時代が長く続いたが、今ではその栄光も香港に追い抜かれてしまった。ちなみに、世界銀行が発表した2015年のランキングでは(1)香港 (2)日本 (3)マカオ (4)イタリア (5)スペインの順となっている。
生活の隅々にまで浸透する「医食同源」の考え方
なぜ香港は世界一の長寿都市になったのか?
さまざまな理由が考えられる。私自身、かつて香港で暮らしていた経験があるが、その当時の生活を振り返りつつ、今の香港の事情も取材して、原因を検証してみたい。
第一に挙げられるのは「医食同源」の考え方が生活の隅々にまで浸透していて、香港の人々は「身体にいい食べ物」を常に意識的に食べていることだ。
グルメ大国・香港だが、意外にも、食事は豪華でおいしければいい、というわけではなく、食事で病気を予防するという意識が強い。香港の街を歩いていて目につくのは漢方薬の店だ。香港島には漢方街というエリアがあり、そこには100軒近い漢方店があるが、香港では「普通の人々」がこうした店に頻繁に出入りしている。具体的な病気にかかっていなくても、「冷え性に効く漢方」や「更年期の症状にいい漢方」を処方してもらい、ふだんから飲んでいるという人が多い。クスリという感覚ではなく、健康のために習慣的に飲んでいるという感じだ。