アメリカ軍が昨年4月、シリアの空軍基地をミサイル攻撃するに至った経緯も恐ろしい。アサド政権が化学兵器を使用したことを非難し、トランプ大統領は軍事行動を指示した。しかし、トランプ大統領は当初、軍事行動を起こしてもアメリカが得することは何もないと参謀のバノンに耳打ちされ、シリア問題へは関心をみせなかった。そこで動いたのがバノンと敵対するイバンカだった。大統領に言葉で説明しても意味がないことを知っているイバンカは、化学兵器で攻撃され口から泡を吹く現地の子どもたちの写真などを大統領に見せ、非人道的なアサド政権に対し行動を起こす必要性を納得させたという。写真をみたトランプ大統領はすぐに気が変わり軍事行動をとることにしたという。
「わたしがバスローブを着るような男にみえますか?」
本書を著したウォルフは大統領の資質そのものに手厳しい評価を下している。
He had somehow won the race for president, but his brain seemed incapable of performing what would be essential tasks in his new job. He had no ability to plan and organize and pay attention and switch focus; he had never been able to tailor his behavior to what the goals at hand reasonably required. On the most basic level, he simply could not link cause and effect.
「トランプは何とか選挙に勝って大統領の地位を得た。しかし、その新しい仕事で求められる任務を遂行できる頭脳を持っていないようだった。プランをたて、チームをとりまとめ、集中力を高め、焦点を定める能力を持っていなかった。その時々のシチュエーションにあわせ常識的な対応をすることができていなかった。もっとも本質的な部分でいえば、因果関係を把握することさえできなかった」
トランプ大統領が文字を読むのが嫌いで、資料のたぐいに目を通さないのはもはや有名な話だ。本書ではその点に関連して、さらに次のように書く。
But not only didn’t he read, he didn’t listen. He preferred to be the person talking. And he trusted his own expertise—no matter how paltry or irrelevant—more than anyone else’s. What’s more, he had an extremely short attention span, even when he thought you were worthy of attention.
「大統領は読まないだけではなく、人の話も聞かない。話す方が好きだ。また、自分の専門知識に最も信頼を置いている。自分の専門誌知識が限られたもので、必ずしも分野が違うものであってもだ。おまけに、注意力を持続できる時間がとても短く、ちゃんと話を聞くべき相手であっても関心を持続できない」
トランプ大統領は一方で、自分のイメージを大切にし、メディアでどう取り上げられ評価されるかを異様に気にしている。スーツにネクタイというちゃんとした服装を好むという。大統領に就任して間もないころ、トランプがホワイトハウスで夜遅く灯りをつけるスイッチが分からずバスローブ姿で徘徊したとニューヨーク・タイムズ紙が報じたところ、本人は憤慨したという。