2024年11月24日(日)

WORLD CURRENT

2011年1月25日

 経済活性化のため法人税の実効税率を5%下げるのはよいとして、年収1500万円以上のサラリーマンなどへの増税を打ち出すなど、オバマ政権とはおおよそ逆方向に舵を切った。高齢者医療の費用増は放置したまま、3歳までの子供への子ども手当は増額する。農業立て直しのメドが立たないまま、農家への戸別所得補償は拡充する。

 財政破綻が迫っている国とは思えない、方向感のない税財政政策が繰り広げられている。先行きを悲観して日本株が売られても不思議ではないが、現実には11月以降、外国人投資家は継続的に日本株を買い越している。菅内閣に期待しているはずはないのに、時ならぬ外国人買いの背景は何か?

 理由のひとつとして考えられるのは、FRBの金融緩和で膨らんだ米国の投資マネーだ。短期金利がゼロとなったドル資金を元手にグローバルな投資を拡大しているが、新興国の株式は割高になり、欧州は財政・金融危機が火を吹いている。ならば割安に放置され、ポートフォリオ(運用資産)に占める比率が大幅に低下した日本株に打診買いを入れてみようか、という訳だ。

 民主党政権が行き詰まったのも、実は日本株買いの材料になり得る。大きな政府を志向し、企業活動や成長に無関心だった鳩山政権は、とても危なっかしくてみていられなかった。菅政権がよいというのではさらさらないが、ねじれ国会の下では野党に妥協する形で、経済政策を現実路線に転換せざるを得なくなっている。法人税の引き下げなどは、その象徴だろう。

 もうひとつは、民主党が掲げていた政治主導路線の微妙な軌道修正だ。政治主導というのは反霞が関官僚という意味だが、大臣と副大臣、政務官の政務三役だけで政策を切り盛りできないことはハッキリした。民主党政権の幹部たちが政策の仕組みを知らないことをよいことにして、「形状記憶合金」よろしく霞が関主導の政策決定が復活した。財務省主導の色彩が明確になった2011年度の予算編成はその典型だろう。長い目でみてとても望ましいこととはいえないが、仮免どころか無免許政権よりはマシという雰囲気が市場に広がっているのも確かである。

 かくして、菅政権が明日をも知れぬ状況にあり、新国会の大荒れが必至というのに、景気も市場も小康状態となっている。とはいえ、現状のまま手をこまねいて、日本経済の病根が治癒されることなどあり得ない。

 11年度の実質成長率は1.5%、名目成長率は1.0%─。政府は日本経済について、こんな見通しを打ち出した。不況慣れしてしまったせいか、マイナス成長でなければいいか、といった心理が蔓延しているようにみえる。ならば、この数字はどうか。

財政破綻が現実に

 474兆円、479兆円、484兆円。09、10、11年度の日本の名目国内総生産(GDP)の金額だ。リーマン・ショック前の07年度の名目GDPは515兆円あったので、11年度に政府見通し通り成長したとしてもなお30兆円余り少ない金額にとどまる。

 一方、11年度の消費者物価上昇率は0.0%の見通しと、政府はデフレ脱却を期待している様子である。だが、名目と実質の成長率の差であるGDPデフレーターでみると、政府見通しでもなお0.5%のマイナスとデフレの基調は続く。


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