もう1つはイスラエルとの戦争に備え、シリア南部に「恒久的な橋頭保」を構築することだ。だから北部に余計な労力を注ぎたくないというのが本音。イランはクルド人の拠点に配下の民兵部隊を入れて、トルコの攻撃の矛先を鈍らせ、戦線が拡大することを阻止しようとしたのかもしれない。
米紙などによると、イランはシリアに革命防衛隊など約3000人を派遣し、配下のシーア派民兵2万人を動員している。革命防衛隊は一部が直接的に戦闘に加わっているものの、その大半は戦闘部隊というより民兵に助言や訓練を施す軍事顧問団だ。
民兵はレバノン、イラク、アフガニスタン、パキスタンから来たシーア派教徒。イランが給料を払って勧誘した。イランはシリア領内の拠点についても、首都ダマスカスとアレッポ近辺に計3カ所の司令部を、また全土の前線に計7カ所の指揮センターを設置している、という。
第2のヒズボラ結成へ
イランの支配のやり方は「レバノン方式」と言われる。80年代にレバノンに作ったシーア派武装組織ヒズボラを同国一の強力な軍事・政治組織に育てたやり方だ。「傀儡勢力を作って自分たちの意のままにその国を牛耳る」(同筋)方法だ。レバノンでは、ヒズボラに対抗できる勢力はいなくなった。
イラクでもイランは、米軍のイラク侵攻に際して、多くのシーア派民兵組織の創設に手を貸し、これら民兵軍団が今や、イラクの強力な軍事勢力になった。1万人を超えるこうしたイラク民兵がイランの指示でシリアに動員されている。イランは5月のイラク議会選挙で配下の民兵軍団の指導者らを立候補させ、イラクへの政治的な影響力をさらに強めようとしている。イラクのイラン化だ。
特筆すべきは、イランがシリアにもこの「レバノン方式」の導入を図っている点だ。すでにヒズボラがシリアから撤退した場合に備え、シリアにも息のかかった民兵組織を発足させつつある、という。当面はイラクのシーア派民兵が中心となるようだが、ゆくゆくはシリア独自のシーア派民兵を組織化したい考えのようだ。「第2のヒズボラ」ともいえる組織だ。
こうしたイランの戦略は不倶戴天の敵であるイスラエルとの対決を見据えてのもので、イラクの民兵指導者2人が最近、イスラエルと対峙するレバノン南部国境を密かに視察。シリア南部国境での対イスラエル戦に参考にするためだった、と言われている。
イスラエルはシリア国内のイランの動きに神経をとがらせており、軍部には、レバノンとシリアという2つの国境での戦い、広い地域にわたる「北部戦争」の準備を進めなければならない、との危機感が高まっている。
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