東京財団では、近年の森林売買の増加について、実態と政策課題の分析に08年から取り組んできた。そこで明らかになったのは、国土の約4割を占める私有林について、そもそも売買状況を把握することさえ困難であり、その根底に土地制度に関する根本的な課題があるということだった。以下、東京財団で行った政策提言、
(1)森林の地籍(土地の所有者、面積、境界)の確定
(2)森林売買の取引市場の創設と透明化
(3)森林の売買、用途にかかる規制と公有林化
に基づき順を追ってみていこう。
実は、日本では地籍の把握は49%しか行われていない。16世紀末の太閤検地時点と大して変わらないとすら言われる。
森林には売買規制はなく、所有権の移転状況を調べるには不動産登記簿を見るしかない。
だが、森林の大半は地籍調査未了のため登記簿に正確な情報が記載されていない。長引く林業不況で資産価値の下落した山林は、相続時の扱いも曖昧なまま放置されることも多く、登記簿の名義変更漏れも珍しくない。また、世間に騒がれたくないからとダミーの名義を使って買収すれば、実際の所有者を特定することはさらに困難だ。
土地売買一般については1ヘクタール以上(都市計画区域以外)の場合、国土利用計画法によって、都道府県か政令市への事後届出が義務付けられている。
だが、売買届出の所管は国土交通省、不動産登記のそれは法務省であり、両者の情報管理上の連携はない。売買届出は不動産登記の際の必要書類になっておらず、違法ではあるが無届出でも登記は可能なのだ。
今後、林業低迷や高齢化を背景に、山を管理しきれなくなった所有者が山林を手放すケースは増え続けるであろう。地籍が未確定のまま、売り方、買い方の合意だけで山が頻繁に転売されていけば、自治体が地権者(納税義務者)を特定する行政コストは増大し、公平な徴税も困難となる恐れがある。路網整備をはじめ林業再生に必要な事業への合意を取りつける際にも大変な手間と時間が必要になろう。所有者が海外在住の資本家やタックスへブン地域所在のペーパーカンパニーになればなおさらだ。そうした所有者不明の森林への対策のためにも、時間はかかるが、地籍の確定と森林売買の透明化は必須だ。
なお、以上のことは森林に限らず土地全般についても言えることに留意しておく必要がある。
強い所有権に 野放図の処分権
土地には地域固有の歴史と所有権(財産権)がある。そこに踏み込むことで思わぬ係争や軋轢を生みかねない、ある種「アンタッチャブル」な側面もあろう。だが、グローバル企業の動きは速い。長年の不作為をこれ以上放置せず、手遅れになる前に制度を見直すことが急務である。
土地に関するさらに根本的な問題は、日本の制度は土地所有者に対して、世界で最もと言っていいほど強い所有権を認めていることだ。
そもそも、土地は基本的には公共財であり、公益的な利用のためのルール整備が不可欠である。このため、例えば英国の土地所有権は利用権に近く、最終処分権は政府が持つと考えられている。フランスや米国には公的機関による強い先買権や優先的領有権が存在する。