町民の水道水のほとんどを地下水でまかなっている北海道ニセコ町は、町内の水道水源林のうち民間が所有する5カ所(うち2カ所はマレーシア企業が所有)の公有化を決め、昨年秋から土地の買い取り交渉を開始している。
ただ、土地所有者が強い私権を有する今の制度下では、交渉は長期化するかもしれない。当面、外資から土地を賃借して町民の飲料水を確保するという状況は続くであろう。統一的なルールがないから、自治体が個別に対応せざるを得ないのだ。ニセコ町在住で同町の観光振興に尽力しているロス・フィンドレー氏も、次のように言う。
「より良い地域にするため、自分たちが大切だと思う場所、例えば水源地の売買や開発を禁止するなど、最低限のルールはつくるべきです」*2
地域経済を維持していくには、多様な人材と資本を呼び込むことが欠かせない。しかし、グローバル企業が狙う〈短期収益回収の思惑〉と〈地域の公益〉が一致しないことは、しばしば報告されている。
繰り返し言うが、我が国の問題は土地に関するルールが未整備であることだ。場所によっては、土地の転売が国土喪失という事態にも発展しかねない。そういった想定もしておく必要があろう。
今、私たちがなすべきことは、グローバル経済下にふさわしい備えを整えていくことだ。土地情報の現状把握を急ぐとともに、公益の観点から土地制度の不備について見直していくこと、さらには私権の制限も容認していける社会を創り出していくことである。
司馬遼太郎の警鐘を無駄にしてはならない。
(詳細は、インターネット上で1月27日より公開する東京財団の政策提言「日本の水源林の危機Ⅲ」をご参照頂きたい)
*1 司馬遼太郎『土地と日本人』(中公文庫、1980年)
*2 北海道新聞朝刊(2010年12月10日付)
〈参考文献〉
東京財団「日本の水源林の危機」(2009年)、「日本の水源林の危機Ⅱ」(2010年)。東京財団HPに掲載中。
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