これに対し、日本では明治の地租改正以来、最終処分権まで含む極めて強い所有権が土地所有者に認められている。地権者の合意が得られず、いつまで経っても道路や空港が完成しない事例が多数あるように、行政の土地収用権は効果的に機能しているとは言い難い。
土地の開発についても規制は緩い。森林の場合、保安林(私有林の3割程度)を除けばかなり自由に開発ができ、1ヘクタール未満の開発なら特段の規制はないと言えよう。保安林であっても、地下水の取水や転売といった観点からの規制はない。
海外からの投資も自由だ。近隣のアジア諸国を見ると、外国人の土地所有についてエリア限定や事前許可制とするなど、制限を課している国が少なくない。しかし、日本にはそうした制限はなく、誰でも強い土地所有権を持つことができる。
米国の外国投資国家安全保障法(FINSA)のように、国の重要なインフラや基幹産業に対する海外からの投資について、経済安全保障を含めた国益の観点から総合的に審査を行う制度も整っていない。外為法(外国為替及び外国貿易法)による規制はあるものの、不動産業などへの投資は事後報告でよく、未然に問題を防げる仕組みを備えているとは言い難い。
このように現行制度下では、主要な国土資源である森林、離島や沿岸域など安全保障上、重要な地域を含め、地域の環境や安全を脅かすような乱開発が起きた場合でも、土地所有者の合意がなければ、土地の所有や利用実態を変更することは極めて困難である。
公有化や利用規制 急ぐべき止血策
つまり、目の前に見える現象としては外資による森林売買がクローズアップされているが、「外資か否か」「森林か否か」ではなく、そもそも土地の公益性を担保するための制度が不十分なところに、問題の根本があるといえる。
株式市況が日々変動しM&A(合併・買収)が日常的に行われるグローバル経済のもとでは、土地を購入する企業をその所在地や役員比率等、従来の「外資」の定義で区別することはもはや現実的でない。ダミーの日本人名義で購入すれば「外資」か否かもわからない。
それゆえ、まずは、外資であろうと日本人であろうと適正な所有と管理が行われるよう、水源地域の森林、国境離島、港湾等を含む沿岸域、さらに防衛施設周辺といった、重要な社会インフラや安全保障上重要な地域について、土地の売買、利用にかかる規制を整備することが急務である。
森林及び地下水については、昨年11月末、我々の問題提起も契機の一つとなり、森林所有者等の変更に関わる届出の義務化などを定める「森林法の一部を改正する法律案」、及び「地下水の利用の規制に関する緊急措置法案」が自民党有志議員により国会に提出された。民主党では土地制度に関する政調プロジェクトチームが稼動する動きもある。本件は我が国の行く末に関わる問題であり、党派を超えた連携を切に求める。
さらに言えば、公益性の高い土地の売買・利用規制として、現行の国土利用計画法の「監視区域」等の考え方を広義に適用することも検討すべきである。
同法では、土地の利用目的と適正価格取引を監視するため、都道府県が「監視区域」を指定し、事前届出を義務付け、価格及び利用目的について問題があれば知事が勧告を行うことを規定している。重要な社会インフラに関わる土地については、この規定を適用し、公益的観点から行政による事前チェックを行うことが備えの一つと考えられる。
また、とくに緊急度や重要度の高いケースについては「公有化」も検討する必要があろう。