2024年7月17日(水)

ペコペコ・サラリーマン哲学

2011年2月10日

 そのとき、先の2つのお店のタイガーマスク(伊達直人)のような優しい気持ちのお店の方々に接し、理屈にもならず大げさですが、日本人に生まれて本当によかったと思いました。午前11時の当初から、ビル管理会社の人が30分おきに「まだしばらく警報解除にはかかるようです」という説明が6時間にわたって続く中で、17時頃、あらたな展開がありました。

緊迫感の中、ビルへ

 17時頃、はじめて丸の内消防署の責任者の人が皆の前にマイクを持って現れました。全員が真剣な顔で集合しました。

 「まだ完全に原因をつかみ切れていないので、現段階では警報解除できません。これからビルのB1階全体の検査を行います。そのあと14階から1階までの各階を検査し、問題がないことが確認されれば、そのつど、その階の方々に順次B1階に集合していただき、隊列によって人数を確認・点呼し、エレベーターで各階に上っていただきます。その階に到着したあとは、もう一度隊列で人数を確認し、各自で部屋に行っていただき、“仕事は一切しないで、部屋のドアだけをしっかり閉めて”再度各階のエレベーター・ホールにできるだけ早く集合してください。人数を確認し、B1階まで戻り、隊列で人数を確認・点呼し次第、お帰りいただくことにいたします。よろしくご協力ください」

 警報解除されていないのに、ビルに戻る。しかも、自衛隊のような隊列で、1人の漏れもないように。避難していた人々の中に、再び緊迫感が広がるのが手に取るようにわかりました。地震などの災害で、避難していた住民が、一時帰宅を許された時のような感じとでも言えばよいでしょうか。二次災害のようなものへの恐怖感が、私の心の中にも芽生えました。

 15分ぐらい後、「14階の検査が終了しました。14階の方々はB1階に集合ください」。

 私ども10階の者の場合は、B1階に集まった人数が54人(隊列6×9)でした。私は、10階の1025室に戻り、電気を消しドアのカギをかけて、即刻エレベーター・ホールでの隊列の点呼の後、B1階まで降り、感謝の挨拶をビル管理会社・警備会社・消防署の方たちにして帰途につきました。

リスクマネジメント

 「個人と会社の現実の・具体的リスクマネジメント」を考えつつ、18時55分に帰宅しました。家内に本日の一部始終を簡単に話し、「昼のニュースでやったそうだから、ニュースに出るかも」と言いました。夜の19時のNHKのニュースを見て家内が、「黒いコートで帽子をかぶっている、この孤独な人があなたですね」と私を見付けました。

 後日談としては、この日の警報解除は、この1月8日(土)の20時であったということです。翌週は平常どおり、となりました。

 翌1月9日(日)の日本経済新聞朝刊(13版、31面)、『有毒ガス 260人避難。大手町のビル、1人重傷に』によると、東京消防庁などが東京都下水道局のB1階で有毒なシアン化水素(青酸ガス)や亜硫酸ガスを検出(原因は調査中)、2人が入院(1人重傷)とでました。この重傷の方も翌週はじめに退院されたと聞いて安心しました。

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 1月10日(祭日)に、京都にいる高校時代の友人伊藤尚夫君との電話で、今度の概略を話したところ、彼は即座に、「新年早々に“やくおとし”をしてよかったね」と言ってくれました。

 「リスクマネジメント」と言葉にすれば、簡単なことのように思えますが、実際に直面すると、いかに対応が難しいかということを実感した一日でした。

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