というのも、今の中国の国内状況とその直面している国内諸問題は、革命が起こる前のエジプトとあまりにも状況が酷似しているからである。同じ独裁体制の下で、人権や言論の自由などが抑圧されている状況は中国も同じだが、それに加えて、「革命の利器」たるインターネットの発達は中国の方がむしろ進んでいる。そして今、経済が成長しながらの失業者増大と物価上昇、貧富の格差拡大や政治腐敗に対する民衆の不満、市場経済と独裁政治との矛盾の突出など、中国の抱える国内問題の深刻さは革命前のエジプトに負けず劣らず、限界に達している。
エジプトでは、それらの問題が集中して発生したところで「反政府運動」という形での爆発となったのだが、今の中国もまさに、反乱の発生を誘発する各種の社会問題の「総合火薬庫」となっている感である。
エジプト情勢は完全に封殺
実は、今の中国共産党政権もやはり、エジプトで見られたような光景が中国で再現してくることを何よりも恐れているわけである。それは、エジプトの革命に対する中国政府の反応と中国メディアの報道ぶりを見てみればすぐに分かることである。
1月25日にエジプトでの反政府デモが起きてから今日に至るまで、中国の国内メディアはエジプトでの出来事を報じる際、エジプト関係のニュースを出来るだけ小さく取り扱う姿勢を貫いている。そして、限られた報道においても、もっぱら反政府運動がもたらした「治安の悪化」や「観光業への打撃」など、負の側面ばかりを取り上げて運動の矮小化を図ろうとしているのである。
その一方、中国国内の大手ポータルサイト「新浪」と「捜狐」の中国版ツイッターでは「エジプト」「エジプト情勢」を中国語で検索すると「関連結果が見つかりません」と表示されるようになり、ネットの世界に対しても厳しい規制がかかったことが分かる。
とくに2月2日、エジプトで100万人規模の反政府デモが起きた翌日、中国国内メデイアの報道ぶりはまったく驚くべきものだった。この日、前日の「100万人デモ」と「ムバラク退陣」のニュースは世界中のマスメディアを賑わし、日本の各新聞朝刊の一面は「エジプト、100万人デモ」と報道されたが、例外なのは中国のメディアだけであった。
その日、人民日報以下、中国の新聞各紙にはエジプト情勢に関しては、「デモ」の「デ」の字も、「100万人」の「1」の字も出なかった。世界中を驚かせたエジプト人の「100万人デモ」の大ニュースは、中国では完全に封殺された。
そして2月11日、ムバラク独裁政権はとうとう退陣に追い込まれた時、中国政府と国内メディアは「落胆」の気持ちを隠しながら、よりいっそう必死の情報操作に走っていた。
中国外務省の馬朝旭報道局長は12日、エジプト情勢について「国家の安定と正常な秩序の早期回復につながることを望む」との談話を発表した。国営新華社通信も「国際社会は平和的な政権移行を求めている」との記事を配信し、混乱波及を望まない中国政府の立場を代弁した。