メディアから読むロシア

2018年5月10日

»著者プロフィール
著者
閉じる

小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

衛星画像から分かること

 そこで筆者が加入している衛星画像サービス「TerraServer」で北方領土のロシア軍基地を検索してみると、Su-35Sが飛来した3日後の3月29日の画像がヒットした。精査してみると、択捉島の主要な軍事基地周辺で地対艦ミサイル・システムが展開していることが確認できる。ロシア軍からの発表は見られないものの、おそらくは地対艦ミサイルを野外展開させて対艦攻撃を想定した訓練が実施されていたのだろう。Su-35Sが実施していた防空訓練とは、これに連動した動きであった可能性が高い。

 2016年に択捉島に配備された最新型のK-300Pバスチョン地対艦ミサイル・システムは300km先の水上目標に対する攻撃能力を持つが(対地モードでの射程は450km)、これほど遠くの目標を捕捉するには捜索レーダーを搭載した洋上哨戒機などを飛ばす必要がある。これまでの演習でも、カムチャッカ半島に配備された洋上哨戒機が北方領土付近まで進出し、沿海州から発進した戦闘機がこれを護衛するといった運用が確認されているが、北方領土に戦闘機が常駐すれば、地対艦ミサイル・システムの防護だけでなく、その「眼」となる哨戒機の護衛も容易になるだろう。

 また、Su-35Sが飛来したのと同じ3月26日には、北方領土で破壊工作員の上陸に備えた地上部隊の訓練が行われていたことも明らかにされている。これも地対艦ミサイルの野外展開と連動していた可能性がある。

 ちなみにロシア政府は今年2月、択捉島のヤースヌィ空港(2010年代になってから新たに建設された民間空港)を軍民共用化する政令を施行した。戦闘機部隊が常駐するとした場合、展開基地はこちらになる可能性も考えられるだろう。

 ブレヴェストニク周辺は霧が多く、目立った着陸支援設備も存在しないのに対して、ヤースヌィは気象条件が比較的良好とされる上、レーダーその他の着陸支援設備を有する。また、衛星画像でヤースヌィ空港を観察してみると、今年に入ってから悪天候下の離着陸を可能とする電波着陸支援装置らしきものが設置されたことも確認できる。

 以上、公開情報と衛星画像を用いて北方領土におけるロシア軍の動きを分析してみた。その結論がどこまで妥当するかは今後の展開を注視する必要があるが、すでに触れた今年秋の大演習「ヴォストーク2018」はひとつの「答え合わせ」となろう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る