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世界の記述

2018年5月30日

 マニラ湾沿いの遊歩道に昨年12月上旬に設置されたフィリピン人慰安婦問題を象徴する女性像が、4月下旬に撤去された。1月に訪比した野田聖子総務相や在比日本大使館は遺憾の意を比政府側に伝えていたため、撤去は日本側に配慮した格好となったが、両国の元慰安婦支援団体などからは反発の声が相次ぐ。

4月下旬に撤去されたマニラの慰安婦像
(写真・TAKEHIDE MIZUTANI)

 撤去は4月27日深夜、フィリピンの公共事業道路省によって実施された。同省広報担当者によると、撤去の目的は「洪水対策工事のため」。しかし、深夜に実施されたことから、関係者の間では疑問の声が上がっている。

 これを受けてドゥテルテ大統領は、ダバオ市で行った記者会見で「他国の反感を買うのは我々の政策ではない。日本はフィリピン人(女性たち)に謝罪した。補償という意味では、(謝罪以上の)多くのことをしてきた」と語った。

 慰安婦像の設置に関わった中華系フィリピン人活動家、テレシタ・アン・シー氏は地元メディアの取材に対し「フィリピンは、日本を含む隣国や貿易相手国に誠意を持って対応しなければならない。それは理不尽な要求に従うという意味ではない」と語り、大統領の見解を批判した。

 有力英字紙のインクワイアラーは5月3日付の社説で慰安婦像の撤去について、「日本政府による開発援助に対する謝意、そして譲歩の姿勢を示しているのではないか」と疑問を呈した。

 その上で、日本政府から昨年、インフラ整備事業に総額約12億6000万ドルの資金協力を取り付けたことなど具体的な数字を列挙。「戦争中に被害を受けたフィリピン人女性の尊厳と引き替えにするのは安すぎる。売り物ではない」と痛烈に批判して締めくくった。

 約40の団体で構成される日本のネットワーク「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」も抗議声明を出し、「比政府は、日本政府の不当な要求に屈し、自国の女性の尊厳を切り捨てたという汚名を返上しなくてはならない」と非難した。

 フィリピン人元従軍慰安婦に対する補償問題は、名乗りを上げた元慰安婦46人が1993年、日本政府を相手取って総額9億2000万円の損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしたことに始まる。しかし、10年後の2003年末に最高裁で敗訴が確定し、司法による救済の道は閉ざされた。このため、フィリピン国内で立法措置による道が模索されてきたが、現在も実現には至っていない。

  
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◆Wedge2018年6月号より

 

 


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