WEDGE REPORT

2018年5月31日

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 しかし、事故から半年が経ったころ、

岩本さん(撮影:筆者)

 「このままじゃいけない。諦めず挑戦し続けることによって夢は必ず実現すると言ってきた僕が、ここで諦めてはいけない。過去の出来事にも意味づけをすることによってポジティブに生きることができるし、プラスに変えて生きていくことができる。その意味づけをしたときに再挑戦しなければいけないと思ったのです」

 岩本さんは小名浜港を出港する際、東日本大震災によってヨットを失ったいわき海星高校ヨット部といわきジュニアヨットクラブに2艇のディンギー(小型ヨット)を贈っている。

 「大震災の津波によって家族や友人を流されてしまった人たちが大勢います。きっと彼らは海を怖いと思っている。海を憎いと思っている。でも、海は君たちのことを待っている。気持ちが落ち着いたらもう一度海に出てほしい。僕はそんな願いを込めてディンギーを贈りました」

 さらに

 「津波を経験された方たちの心の荷を下してもらおうと、亡くなった大切な人たちへ手紙を書いて下さいと伝えました。僕が預かって日付変更線で流します。そうすればあなたたちの思いはきっと届きます」と言って手紙を預かり、高校生たちが作ったポストに入れて港を出た。

 しかし、その大事な手紙もエオラス号と共に海に流れてしまった。心の荷を下すどころか、さらに海は怖いという思いを抱かせたに違いないと岩本さんは思っている。それが心に引っかかったまま時は流れていた。

 「このままじゃ終われない。今度は成功して、手紙を書いて下さった人たちの心の荷を下してあげたい。だから、もう一度チャレンジしたいと言い続けていると、それにインスパイヤーされたダグ(ダグラス・スミス)が、『ぜひ一緒にやらせてほしい』と立ち上がってくれたのです。アメリカには失敗をしても、もう一度やろうとする人間を賞賛する国民性がありますからね、そのチャレンジ精神に感動した。やろうと言ってくれました」

再チャレンジに向けた改善策

 こうしてダグラス・スミスさんという協力者を得て、岩本さんの再チャレンジは2019年2月に決まった。今回はサンディエゴ港を出発し、全行程9000km、55日間を掛けて小名浜港を目指すというものだ。

 その再チャレンジにあたり、いくつかの疑問をぶつけてみたので整理しておきたい。

1.前回のチャレンジは海上自衛隊や海上保安庁をはじめ、あまたの救難活動にさまざまな幸運が重なり生還することができた。まさに生かされた命である。その事故を経験し、なぜ再び命がけのチャレンジに挑むのか。

 「目が見えなくなって、死にたいと思ったときに亡くなった叔父が現れて、『ポジティブに生きろ。おまえがポジティブに生きることによって大勢の人たちが勇気づけられる。だから、死ぬな』と言われたような気がして自殺を思いとどまりました。そこに僕が夢にチャレンジする根本的な意味があるんです」

 「僕は諦めずに挑戦し続けることによって、夢は必ず実現すると言い続けてきました。小名浜港に着いて、いわき海星高校ヨット部やいわきジュニアヨットクラブの子たちに『ただいま』と言って、夢はかなうことを示したいし、津波で被災された方々に、僕も海で死に直面しながらも頑張ったよ、だから、頑張ろうと伝えるためにこの夢は達成したいのです」

 「前回クジラがぶつかったことも必然だったと思っています。『おまえは甘いよ、津波の怖さを知っているつもりになっているだけだ。本当の怖さを教えてやる』と死の恐怖を体験させてくれたと考えています。だからこそ、もう一度立ち上がらなければならないと思っています」

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