またトップは目先の対応だけでなく、長期的な視点で施策を考えなければならない。しかし、ここで現場とのズレが生じやすい。熊本県の蒲島郁夫知事は、本震後の早い段階で、職員に対して復旧・復興にあたり「被災された方々の痛みを最小化すること。単に元あった姿に戻すだけでなく、創造的復興(Build Back Better)を目指すこと。復旧・復興を熊本のさらなる発展につなげること」の3つの原則を示した。その時のことについて知事は「マスコミあるいは職員の目も、少し冷ややかだった」と振り返ったが、これは、その時点でのものさしが合っていなかったということだろう。
企業においてもトップと現場の意識のズレは生じやすいが、これを解決するのもやはりコミュニケーションということになる。
2つの顔を持つ首長
トップは本部を離れるな
現場に任せられないトップは、自ら現地に出向く。ただ、単に現場を信じられないという理由だけではない。例えば宇城市の守田憲史市長は、対策本部を離れることはなかったが「私は市民から選ばれた政治家ですから、現場に出向いて〝安心してください〟と言わなくてはいけなかったのではないか」と当時の葛藤を打ち明けてくれた。
首長は災害対応にあたる行政機関のトップとしての顔と、選挙で選ばれた市民の代表としての顔の2つを持っている。もちろん、災害対応の指揮を優先すべきだが、それでも現地に出向くというなら、対策本部の指揮権限を委譲すべきだろう。
蒲島知事は「初動における指揮を、自衛隊OBの危機管理防災企画監に任せた」と言う。自分ができないことや、自分が行う以上によい結果が望めるのであれば、指揮権を移譲することは間違いではない。ただし、そのタイミングがあまりにも早すぎたり、指揮権の委譲が場当たり的に行われたりしたとしたら、対策本部長としての資質が逆に問われることになりかねない。
また、首長がわざわざ現地に出向かなくても、市民に対してSNSを通じて情報発信できる時代である。熊本市の大西一史市長も被災時にSNSによる積極的な情報発信を行った一人だ。一方で、「任せる」という観点からすると、SNSを活用した情報発信をする際には、タイミングや、他の職員への事前の周知に注意を払う必要がある。
大西市長は、平時からSNSを利用していたことに加え、災害時に発信する際には、担当部局に確認し、すでにホームページに掲載していることを発信するよう心掛けたと言う。もし仮に、災害が発生してから、いきなりトップがツイッターを始めたら現場は混乱しかねない。広報担当や現場職員は自分が「任されていない」と感じ、トップに不信を抱くようになってくる。