朝の出勤ラッシュを突然襲った大阪北部を震源とした地震。
松下幸之助が「任せて任さず」と言ったように、あらゆる組織において「任せ方」は、マネジメントの根幹であり、最も難しい点でもある。特に、災害時は、「任せられなかった」「任せたけど失敗した」では許されない。各首長のオーラルヒストリーは「熊本地震の発災4か月以降の復旧・復興の取組に関する検証報告書」に収録・公開されているため、本稿では首長の「任せて任さず」の対応を検証してみたい。
現場への信頼なくして
正しい決断はできない
熊本地震において、最も揺れが大きかった益城町は、前震とされる2016年4月14日の地震発生後に、多くの住民が避難所に押し掛けた。総合体育館では人々が廊下に溢れ出て、「なぜメインアリーナに入れないのか」との批判を浴びせる中、西村博則町長は、現場の職員から上がってきた「天井の一部が壊れている」との報告を受け、メインアリーナには避難者を入れない決断を下した。
2日後に発生した本震では、メインアリーナの天井が崩落した。もし批判の声に押されて、現場の意見を無視していたら取り返しのつかない惨劇になっていたはずだ。町長がこの職員の報告を信じたのは、その職員を信頼して現場を任せていたからだ。
もっとも、現場の判断が正しいと思っても、他の状況も踏まえて、あえて別の決断をしなければならない場合もある。
現場とトップの
「ものさし」を合わせる
現場に「任せる」上で、もう1つ注意すべきは、現場とトップの判断基準の「ものさし」を合わせることだ。安全性なのか、不満を無くすことなのか、風評を防ぐことなのか、その優先順位も双方で合っていないといけない。当然ではあるが、初動期において最優先すべきは命に関わる安全性で、次いで被害拡大の防止、その上で財産や利便性という順位になる。
しかし、災害現場では、そう簡単に優先順位がつけられない局面が次々に発生する。どの避難所を優先して水や食料を配布するのか、誰から先に仮設住宅に入ってもらうのか。こうした優先順位を測るものさしに対する被災者の目は厳しくトラブルになりやすい。
こうした点を解決するには、一にも二にもコミュニケーションしかない。西原村の日置和彦村長は、より多くの職員の声が聞けるように対策本部を1階の広い場所に移し、それぞれの避難場所でどういう対応をしているか、課題が何かを報告させたという。対策本部の空間を広くとることは情報共有をするために重要なことだ。