この熱き人々

2018年7月23日

»著者プロフィール
閉じる

吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 海と陸が触れ合う。乗客と住民が触れ合う。言葉にするとわかったような気になるが、それを設計によってどう実現していくのか。

 「瀬戸内海のありのままの風景をどうフレーミングするか、どんな額縁をつければ最も自然にそれを受け取れるのかということを最初に考えました」

 切妻屋根の庇(ひさし)で切り取られた島々や風景を想像すると、切り取る素材が鉄やコンクリートや樹脂では景色と分断されてしまう。一体化するための素材は木しかない。3階部分のラウンジやダイニングは木がふんだんに使われたまさしく木造家屋で、2階と1階の客室部分も床はタモ、天井や壁はアルダーと、多様な木の温もりに満たされている。

心地よい風が吹き抜ける切妻屋根のデッキ

 3階のデッキには、広い縁側が設けられている。この地方の名産であるイグサで編まれた丸い座布団に座って時を過ごす。縁側というのは日本独特の設(しつら)いで、家の外とも内ともいえない不思議な場所である。通りすがりの人も、縁側に腰掛けて何となく話をすることができる。

 「縁側から島々や集落を見ていると、そこに住んでいる人と自分が何かを共有しているような感覚になるんじゃないか。向こうも屋根の下の縁側にいて通り過ぎる船を見ている。同じ時を共有しているという共感が得られるかもしれない」

 その〝時〟は、今流れる時間かもしれないし、遠い古(いにしえ)の時につながっていくかもしれない。住宅を設計する時にも、その土地や風景や住む人の記憶を継承していくことが建築家の大事な役目であると堀部は語っている。

 「前にテレビで見たんですが、生まれてからずっとコンクリートの四角い団地で育った少年が、初めて旧来の日本家屋の縁側に寝そべった時に『懐かしいなあ』と言ったんです。初めての経験なのに、昔話なのか両親から聞いた話なのかDNAに残っているものなのか、スイッチが入って記憶がつながれていく。縁側に腰掛けてお酒を飲みながら風景を眺めている時、何か懐かしいなあというふうに、都会のコンクリートの中の暮らしで途切れかけていた記憶の回路がつながっていくような船になってくれればいいなあと思っています。で、日本人って何なんだろうとか、日本の風土のもつ豊かさとか、誰かに教えられるのではなく感じてもらえればと。初めてなのに懐かしい。それが自分の考え方の背骨になっているんです」

関連記事

新着記事

»もっと見る