2024年11月23日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年5月11日

 政治改革に関する温の強気の発言の背後に、胡錦濤の指示なり意向を受け、「温が叩かれ役に徹するなど2人で役割分担がある」(中国筋)のかどうかが焦点だったが、北京の専門家の間でほぼ一致したのは「胡ら党指導部内で前向きな反応はなく、温は孤立した」ということだ。10月8日、劉暁波へのノーベル平和賞授与決定を受け、共産党指導部は引き締めを強化し、同月27日付の共産党機関紙・人民日報1面に掲載された「正確な政治方向に沿って積極かつ穏健な政治体制改革を推し進める」と題する評論は、温の方向性を明確に否定した。

 しかし約半年間の「沈黙」を破って温家宝は再び発言を始めた。以下、4月に入っての温の主な発言を挙げよう。

 (1)4月14日、「一つの国家で、民度の向上や道徳がなければ真に強大な国家、尊敬される国家になることは絶対にできない」(国務院参事・中央文史研究館館員との座談会、新華社報道)

 (2)4月23日、「中国社会には封建の遺物や文化大革命が残した害毒が存在している。社会の気風浄化に影響しており、改善の必要性がある」(元全人代香港代表団団長・呉康民と中南海で会見・会食、28日付香港紙『明報』)

 (3)4月28日、「政治体制改革、経済体制改革、司法体制改革など一連の改革により、政治など上層構造を下部の経済構造にさらに適応させなければならない。各個人・組織は法の前で完全に平等であり、公平の原則を順守しなければならない。個人の独立した思考と創造精神を提唱する必要がある」(クアラルンプールで地元華僑と会見、香港紙など報道)

異例の「異質な思考」評論

 こうした発言で温家宝が重要性を強調したのは「民度・道徳の向上」「社会の公平」「真実を語る風潮」など。どことなく趣旨は朱鎔基が清華大学で苦言を呈した内容と似ていないだろうか。

 温家宝発言の多くは、またもや新華社など公式メディアは黙殺し、香港からの情報として伝えられ、温の党内での孤立した現実を示唆した。しかし注目すべきなのは、同時期に党機関紙『人民日報』(28日付)が掲載した「以包容心対待“異質思維”」(「寛容な心で『異質な思考』に」向き合おう)という評論である。

 「『私はあなたの考えには同意しない。しかしあなたの発言する権利を守ることを死んで誓う』。これは一種の度量であり、さらには一種の自信である」

 元社会科学院研究者の張博樹は、「論敵対思維」(「敵対思考を論ず」)との文章で、共産党は社会を「敵」「我」の二つに分ける「敵対思考」の伝統を持ち続けていると指摘した。一方、先の『人民日報』評論は、敵対思考モデルでは、社会調和の構築や健全な心理状態の形成に役立たないとまで言い切っている。

 しかし最近の中国当局による人権派弁護士や民主活動家らに対する異様なまでの拘束・迫害の実態を見れば、共産党に「異質な思考」を受け入れる寛容さを見出すことは不可能だ。そしてこの「異質な思考」を受け入れる度量こそ、中国共産党が国際社会から「責任ある大国」として認められる際に必要なカギになるものだ。

 これに続き、人民日報は5月5日付でも「用公平正義消解“弱勢心態”」(「公平・正義で弱い心理状態を解消しよう」)との評論部による評論を掲載。「公平・正義の光が照らすもとで、ルールと制度によって公平発展の空間や、共に享受できるプラットフォームをつくり出そう」と訴えた。


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