この交渉内容が本社に伝わると、「販売などとんでもない。無償供与によって中国の日本に対する友情のあらわれとし、操作技術の迅速な訓練などあらゆる援助を惜しまない」ことが即決し、中国政府も迅速な通関手続きを行い、僅か数日後には上海発大阪行のフェリーに乗せられた。大阪にこの機械が到着した後も、日本側は全ての信号を青信号として福島第一原発に送り、この営業担当者は日本人が中国製品をVIP待遇としたことに心からの誇りを感じたという。
「国産」を騙る中国 静観する外国企業
このような感情の先にあるものは、今後ますます中国の先端的な製品で日本を席巻し、日本を心から感服させたいという願望である。しかし従来の中国製品は、先端的なものであればあるほど日本製の部品や日本から技術供与を受けたノックダウン部品(あるいは欧米諸国からの同様の製品)を装備しており、純粋な中国国産とはいえない。例えば、既に国費の浪費・汚職・手抜き工事が発覚して大幅な計画変更と減速運転が発表された高速鉄道網について、中国政府は強硬に「中国国産」を主張して日本やドイツなどの批判をかわした時期があったが、そこで意気が上がった中国のネットユーザー(とくに台頭著しい鉄道ファン)は政府の主張を真に受けて「我が国の技術は我々の創意によって短期間のうちに世界最先端となった。願わくば中国製の新幹線が日本の象徴である富士山の目の前を走り、日本人民に利益と威光をもたらさんことを!」と豪語する有様だったものである。しかし何と言うことはない。東北新幹線にそっくりなCRH2型及び、その380km/h対応改良車であるCRH380A型は、川崎重工や三菱電機などの技術の固まりであり、一般の旅客・貨物列車用機関車として大増殖を続ける「和諧」系列電気機関車・HXD3型は東芝技術の固まりであるに過ぎない。
結局、これまでの中国製品の質的向上は、急速に膨らんだ外貨準備を裏付けに外国から部品やライセンスを手っ取り早く購入したことによって実現したものであり、それはすなわち中国における外国技術の勝利を意味するに過ぎない。だからこそ「国産」なる主張の矢面に立たされた外国企業は、技術の盗用・流出が現実化しない限り、実質的に自社に利益が転がり込めば良いとして、多くの場合静観を決め込んでいるのであろう。
中国が狙う日本の革新技術
しかしそのような現実に甘んじていては、中国ナショナリズムの究極の目標……国際社会から決して侮られず、世界中の先進的な存在すべてから真の尊敬を勝ち取る超大国として台頭すること……を実現することは出来ない。何としてでも外国企業の門外不出の核心技術を中国に誘致し、それらを自らのものとして完全に消化することにより、世界的な影響力を持つ技術革新を創出しなければならない、と考えているのである。
だからこそ、中国政府や諸企業は、東日本大震災で行き場を失った日本企業に中国という場を提供するべくアプローチを強めて来るであろう。例えば、中国社会科学院日本研究所の馮昭奎氏は以下のように述べる (http://cjkeizai.j.people.com.cn/98732/7367891.html)。
「日本製品が久しく名声を博しているのは、世界的な産業の連鎖構造の源にあるような資本財を生産することに長けているためであり、部品加工やマザーマシンの製造など先端的な産業を擁するからである。日本は代々にわたり、ある種の狭い専門領域に特化して技術を鍛錬している中小企業を膨大に擁しており、少なからぬ企業がOnly One企業と称えられている。……しかし日本では余震が絶えず、今後数年にわたる可能性もあるため、日本の少なくない企業が技術の国外流出を避ける発想を考え直すことになるだろう」。