モンゴル帝国の古都で聞く「テロリストを識別するための尋問技術」
9月15日。草原のど真ん中の古都ハラホリンのゲストハウスで欧米人グループとおしゃべりしていた。オジサンが日本人と知ると一人旅をしている米国の若者、ジェームスが日本語で握手を求めてきた。彼は国際関係論を専攻して学生時代に2年間休学して九州で英語補助教員をしていたという。
卒業後は米国国土安全保障省(Department of Homeland and Security)に入り入国審査を担当しているという。現在はテキサスで主としてメキシコからの移民やメキシコ経由の中南米移民を審査している。またシリアなど中東出身者やアフリカ出身者の難民申請、亡命申請も相当数あるという。
やはりオバマ政権時代からトランプ政権になり合法的移民や難民受け入れ枠が大幅に削減されたようだ。同時に入国管理を厳格化したので仕事量が激増。職員も増やしているが追いつかない状況。
彼の担当業務は窓口担当者では判断できない申請者の審査である。面談(interview)による尋問(interrogation)である。同じ項目を色々な角度から繰り返し聞いて矛盾点を探しだす(cross-examination)ことや、疑問点の裏取りをする作業である。対象者が虚偽内容を陳述している場合はテロリストや前科者(犯罪履歴者)の可能性が高い。
例えば、イラク出身者の場合は兵役を確認する。イラクの兵役記録は書類として現存しているので照会可能だからだ。兵役記録と齟齬があればノーである。兵役記録で問題なければ出生地の戸籍照会。並行して過去10年どこで何をしていたかを詳述させる。些細な矛盾点から掘り出してゆくという緻密な作業である。
その人物や家族の運命を決めることになるので神経が磨り減る毎日のようだ。九州で過ごした平和な日々が懐かしいと笑った。
フランス娘が語る“人間と馬の共生”
9月16日。ゲストハウスで知り合ったフランス女子アンヌ25歳と、ハラホリンからウランバートル行きの長距離バスに乗った。彼女はフランスの真ん中のリオン在住。なんとリオンで二頭の馬を飼育して調教しているという。競走馬ではなく乗馬用の馬種という。
アンヌは一年の計画で世界一周の途上である。留守中は二頭の馬は友人に世話を頼んだ。驚いたことに、この旅行の目的は、世界の国々で馬がどのように人間に飼われて、どのように人間と関わっているのか実地で学ぶためという。乗馬大国モンゴルはアンヌにとり憧れの国であった。
馬の調教で有名なウィーンのスペイン馬術学校を最初に訪問した。馬の集団による群舞は圧巻である。次に米国のニューヨーク市の騎馬警官隊を訪問。ちなみに欧米では大観衆が集まるイベント警備や観光地の巡回警備に騎馬警官が活躍している。
マンハッタンでは大観衆が集まるパレードが年中行事である。頻繁に出動するので、ニューヨーク市警では警察署のビルの地下に厩舎を設けているそうだ。そして、米国中西部の大牧場でカウボーイの仕事を体験。南米に飛んでアルゼンチン、ブラジルでもガウチョ(カウボーイ)と馬の係わりを学んだという。さらにアジアでは韓国の済州島の馬の放牧を見てきた。
アンヌの話を聞いて、一つの事に集中して掘り下げて極めていくと、逆に自分の世界が広がっていくことに気づいた。
⇒第8回に続く
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