Wedge REPORT

2018年8月15日

»著者プロフィール
閉じる

吉村慎司 (よしむら・しんじ)

フリージャーナリスト・北海道国際交流・協力総合センター研究員

1971年鳥取市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。97~2010年日本経済新聞社勤務。11年ロシア・ウラジオストク国立経済サービス大学短期留学。現在は札幌市を拠点に、フリージャーナリストとして幅広い分野を取材している。公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)研究員も務める。

 だが、住宅集約は住む側にもメリットがあった。市営住宅は古く、断熱性能が低い。仮に隣室や上下階が空室だったら、冬の暖房効率は極端に低くなる。これに比べて居住者の多い棟は暖房効率が高い。冬の長い北海道ではこの違いはストーブの灯油代に大きく影響し、生活費にも直結する。引っ越し費用についても市が一律14万円強を支給するため、安く手配できれば差額を残せる可能性さえある。金銭面だけでなく、人が同じ棟に住んでいた方が、体調面などの緊急事態に助け合いやすい。途中からは鈴木直道市長自らが地区を訪ね、住民への説得を続けた。

 この結果12年の暮れが近づくころには住民もおおむね合意。転居の確約書も集まってきた。具体的な集約プランは、地区内の風呂なし市営住宅12棟に分かれていた72世帯を6棟に集約し、残りの6棟を空き家にすること、また集約先の6棟は気密性の高い窓枠に取り換えるなどリフォームを行うことだった。このほか共同浴場をバリアフリー仕様に改装することも盛り込まれた。翌13年から段階的に引っ越しが始まり、14年夏、無事に集約が完了した。前述の石本さんは集約先の棟に住んでいたため引っ越しはしていないが、「棟に人が増えて窓も変わって、驚くほど暖かくなった。集約前より住み心地は良くなったね」と明言する。

風呂付の新居に移転した住民も公衆浴場に集まってくる

 行政コストの削減効果が最も現れたのは、2棟に1基の割合で設置していた浄化槽の維持費だ。1基につき年間約300万円の費用が、3基分カットできた。

移転促進のカギは
コミュニティの継続

 既存の建物への住宅集約をコンパクトシティ構想の第一ステージとすれば、夕張は第二ステージにまで足を踏み入れている。新しい建物への集約である。

 対象エリアは「清水沢」と呼ばれる、南北に細長い夕張の中間あたりに位置する地域だ。前述の真谷地同様かつての炭鉱街だが、国道が通り、他地区とのハブ的な地理条件にある。飲食店や小売店が比較的多く、全市民の37%にあたる3072人(今年5月末現在)がここで暮らす。来年には市役所の支所や小ホールなどが入る複合施設が地区内にできることも決まっており、今後中長期的に形成するコンパクトシティの中心地と目されている。

清水沢地区の「ズリ山」から見下ろした宮前地区
新しい住宅への集約が進んでいる宮前地区

 「3年前に引っ越して来るまでは不安だったけど、来て良かった。後悔する声は聞いたことがない」。竹田京子さん(85歳)は、清水沢の道営住宅「実(みのり)団地」の一室で微笑む。この団地は、自主財源に乏しい夕張市からの要請を受けて北海道が15年に開設した集合住宅で、平屋建てのバリアフリー家屋8棟28戸で構成する。もちろん各戸風呂付きだ。窓が大きくて室内が明るく、竹田さんによれば断熱性能が高いため暖房費も安上がりだという。

関連記事

新着記事

»もっと見る