Wedge REPORT

2018年8月15日

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吉村慎司 (よしむら・しんじ)

フリージャーナリスト・北海道国際交流・協力総合センター研究員

1971年鳥取市生まれ。同志社大学大学院総合政策科学研究科修士課程修了。97~2010年日本経済新聞社勤務。11年ロシア・ウラジオストク国立経済サービス大学短期留学。現在は札幌市を拠点に、フリージャーナリストとして幅広い分野を取材している。公益社団法人北海道国際交流・協力総合センター(HIECC)研究員も務める。

 取材に伺ったとき、竹田さんの部屋には同じ団地の友人、東美代子さん(79歳)、上山ミツ子さん(73歳)が遊びに来ていた。3人は全員、同じ清水沢地域で約1キロ離れた旧炭鉱住宅街「清水沢宮前町」からほぼ同じタイミングで引っ越してきたという。経緯はこうだ。14年春、市が宮前町の約70戸を対象に、この地域の市営住宅を中期的に再編する方針説明会を開いた。この会合では「もし早めに意向を示せば、転居先の公営住宅を市で確保する」との説明もあった。竹田さんは、40年以上住んだ宮前町の長屋から離れたくない半面、転居を先に延ばすと自力で引っ越し先を探さなければならない現実にも不安を覚えた。「さらに年を取ってから出て行くよりは今の方がいいと思って、申込期限ギリギリに」市に連絡した。

隣町から集団移転してきた南清水沢の「実団地」では、コミュニティの形成に時間がかからなかった

 フタを開けてみると28戸が宮前町から出ることを決め、翌春、新築の実団地に順次引っ越した。地域コミュニティごとの大移動である。慣れない土地に慣れない家だが、周りはほぼ全員顔見知り。竹田さんと東さんは、引っ越しの翌日から、今までと同じように互いの家に上がってお茶を飲みながら話をしていたという。

 市は老朽住宅を撤去するのと同時に11年度から年10~20戸のペースで公営住宅を新設してきたが、原則として地域コミュニティ単位での転入を働きかけてきた。市建設課の鈴木茂徳課長(50歳)は、「夕張は炭鉱からできた街で、炭鉱はヤマごとに生死を共にするような人間関係があり、コミュニティの絆が強い。先祖代々住み続けている人が少ないため引っ越しを受け入れやすいものの、コミュニティを尊重しなければ住宅政策は失敗します」と語る。

「受け皿」が足りず
時間はかかる

道路を挟んで新旧の住宅が並ぶコンパクトシティの中心地

 コンパクトシティ構想に一定の進捗が見られる夕張だが、取材を通してやはり課題も聞こえてきた。中でも大きいのが、集約先となる住宅物件が絶対的に足りないことだ。

 幹線道路から遠い南部地区。ある市営住宅で出会った女性(68歳)は、かつて夫や子供がいたときの3DKに1人で住む。「便利な清水沢あたりに引っ越したいけど、新しい公営住宅は空きがなくて入れない。無駄な家賃は払いたくないから1DKぐらいがいいけど、民間で探しても単身者向け物件が見つからない」とこぼす。市は新しい公営住宅を増やし、民間の賃貸アパート建設にも補助を出して物件数を増やそうとしているが、財源が限られる中、実際に増えるのは1年で数十戸単位だ。

 真谷地、清水沢の一部で集約に成功したものの、他地区については今後具体的にどうしていくか、市もまだ道筋は描けていない。模索は今も続いている。

現在発売中のWedge8月号では、以下の特集を組んでいます。
■限界自治 縮小ニッポンを生き抜くヒント
吉村慎司、山口亮子、Wedge編集部
INTRODUCTION 過疎化するニッポン 高齢社会を支えられるか
PART 1      行政サービス最低の夕張 町を畳み賑わいを取り戻す
INTERVIEW         行政の危機を住民と共有することが第一歩 鈴木直道(北海道夕張市長)
PART 2                過疎が進んだ中山間地 住民組織で自治を取り戻す
INTERVIEW         等身大の姿に向き合い将来に備え始めた人々 作野広和(島根大学教育学部教授)

  
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◆Wedge2018年8月号より

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