拉致進展でも制裁解除は困難?
北朝鮮の核問題が、こうした不透明、不安定な展開をみせていることは、各国の対北朝鮮政策にも混迷をもたらす。もっとも影響を受けるのは拉致問題解決の解決をめざす日本だろう。
安倍首相は最近、拉致問題について「日本が主体的に解決しなければならない」(8月13日、下関市での講演、14日付産経新聞)と強調している。これまでの米国頼みの方針からの転換だろう。さきのASEAN会議の席で、河野太郎外相が北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相と接触、日本側の考えを伝えたのも、そうした方針の一環だ。日本側は水面下で、さまざまな機会をとらえて先方と接触をはかっているようだ。
しかし、北朝鮮がどう出てくるか。6・12以前、北朝鮮が米朝首脳会談の実現を熱望していた時期なら、各国からの信頼感を高めて会談への環境を整える目的で、日本に対しても好意的にでることは意味があったろう。米朝会談の前後、安倍首相がにわかに日朝首脳会談への意欲を見せたのも、その時期先方から何らかの感触を得てのことだったのかもしれない。しかし、米朝首脳会談が北朝鮮の〝勝利〟に終わった今、状況は大きく異なる。
核放棄という約束を履行しないことで米国の反発を買い、再び孤立した北朝鮮が日本に接近してくるという逆の見方もあるだろう。その場合、日本に有利に見えるが、ことはそれほど単純ではない。核問題が未解決のまま拉致問題、日朝関係が進展すれば、むしろ複雑な展開になる可能性も否定できない。
日朝国交正常化が実現した場合はもちろん、拉致問題が解決した場合でも、北朝鮮は日本に〝見返り〟を求めてくるだろう。日本としては、国交正常化の際には応じるとしても、問題は拉致が進展した場合だ。核開発問題での国連安全保障理事会の制裁が続いているなかで、経済協力ができるか。制裁の旗振り役を担ってきたわが国が、拉致被害者が解放されるからといって、それを解除、緩和すれば、拉致問題を理解してくれているとはいえ、各国の猛烈な反発、非難を受けるだろう。拉致被害者を取り戻そうとすれば、国際的な制裁の足並みを乱さざるを得なくなるという苦しいジレンマに立たされるのは間違いない。
2002年に拉致被害者5人が帰国した際は、見返りなど与えなかった、今回も必要ないという反論があるかもしれない。しかし当時はあくまでも〝一時帰国〟した被害者を日本側が〝永久帰国〟させただけであり、北朝鮮が自発的に解放したわけではない。
中国の支援が日朝対話への障害?
中国による北朝鮮への肩入れも、拉致問題の解決に影を落とす。金正恩は6・12の前後3回訪中し、習近平主席と事前調整、事後報告を行った。
中国側が恐れたのは米朝首脳会談を機会に、北朝鮮が完全に米国に取り込まれてしまうことだった。北朝鮮をつなぎ止めるために中国は、一連の会談で、北朝鮮への多額の経済協力を約束したともいわれている。中国は6・12以後、すでに北朝鮮への制裁緩和の主張を繰り返してもいる。中国からの支援を期待できるとなれば、日本からの経済協力の必要性が薄れ、北朝鮮は、日朝対話への興味を失ってしまう恐もある。