クリントン大統領は弾劾裁判にかけられる
セックス・キャンダルで弾劾裁判にかけられるとなれば、大統領として大変な汚名だが、まさにそれで失職寸前まで追い込まれた大統領が過去にいる。ご存知、ビル・クリントン氏(民主党、1993年―2001年在任)。2年前の大統領選でトランプ氏に敗れたヒラリー・クリントン元国務長官の夫君だ。中年以上の人ならまだまだ忘れまい。米国だけでなく世界中から驚きと侮蔑をもって注視されたあの不倫・偽証疑惑を。
2期目も1年が過ぎようとしていた1998年1月、クリントン氏があろうことか、ホワイトハウスの若い女性インターン生(24歳)と関係を持っていたことがメディアで暴露された。
筆者は当時、ワシントン特派員として、この事件を発覚の時から、クリントン大統領が弾劾裁判で無罪評決を勝ち取るまでのすべてを取材したが、なにしろ、超大国の大統領のセックス・スキャンダルというのだから全世界でセンセーショナルに報じられた。オーバル・オフィス(大統領執務室)で、2人の間にどんな行為があった、微に入り細にわたって伝えられ、記事を書くに当たって、紙面の品位を保ちながら、〝事実〟をつたえるのにひと苦労だった。
「不倫したからといって騒ぎ立てるほどではない」という冷めた見方もなされたが、問題の本質はそんなことではなかった。自分の娘といくつも年齢の違わない女性と密かに関係を持つというのも呆れた話だが、クリントン氏が、連邦大陪審に召喚されて行った証言で、この女性との関係を否定したことが問題だった。犯罪の起訴、不起訴を決める大陪審で嘘の供述をすることは偽証罪という重罪を構成するため、クリントン氏は1998年12月、米上院で弾劾裁判にかけられることになった。翌年1月から上院で弾劾裁判が始まり、翌月、無罪評決を得たが、米憲政史上、弾劾裁判に引き出された2人目の大統領という不名誉な烙印を押されてしまった。
トランプ氏の場合も、弾劾裁判にかけられるとしたら、すでに述べたように、女性関係そのことよりも、それにからむ選挙資金をめぐる法律違反が訴因になると予想される。