世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年9月10日

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 文在寅の今年の光復節演説は、第一に、韓国の進歩派の歴史観をよく表している。かつて、朝鮮戦争研究者シーラ・ミヨシは、「韓国は韓国人により解放されたものではなかった」と言った。植民統治の終わりは自分たちの手で勝ち取ったものではなかった。それゆえ、韓国の進歩勢力は韓国の独立運動家の役割を重要視しようとしている。今年の光復節演説で、文在寅は女性の反日活動家に新たに焦点を当てた歴史観を打ち出しているのも、そうした文脈で理解できる。

 文在寅は、「親日派の歴史は、決して我々の歴史の主流派ではなかった」と言う。文在寅は、過去何度も政治の主流勢力が交替せねばならないと言ってきた由だが、今回初めて、交代すべき「旧主流」は親日勢力であると規定したに等しい。

 演説では直接触れることはなかったが、8月14日を「慰安婦記念日」に制定し、「女性人権研究所」を設置するとしている。米外交評議会のScott Snyder上席研究員は、8月17日付の同評議会のブログ記事‘Moon Jae-in’s 2018 Liberation Day Speech and South Korea’s Foreign Policy’で、これらの決定がこの問題を永続化させることになるのではないかと懸念を表明している。その通りである。朴槿恵前政権による日韓慰安婦合意を覆す遺憾な決定であり、政治喧伝の機関にならないよう、注視していく必要がある。

 北朝鮮問題については、文在寅は、韓国が主役であるとする。前出Snyderの記事は、「韓国を北東アジアの中心に据えるというのは大胆な考えであるが、文在寅には韓国の自主性と(対米)同盟の相反を旨く調整していくことが課題となる。韓国が地域と世界の安定の触媒の役割を果たすとの文在寅の考えを金正恩とトランプが受け入れるかどうか、今後それが試されることになる」と指摘している。適切な指摘である。既に、米国は韓国への苛立ちを感じているような兆候も見られる。

 文在寅は「韓国が主役」というが、余りに楽観的である。「南北関係が良い時には北の核の脅威は緩和した」と述べるが、その時に北は核開発を加速化させていたのではないか。また、金正恩への配慮からか、統一問題についても実質的なことは述べていない。東アジア鉄道共同体などのビジョンを打ち出してはいるが、こうしたことは、金大中政権以後各政権がそれぞれの名称で提案してきたものである。

  
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