2024年12月3日(火)

解体 ロシア外交

2018年9月6日

 8月末に国後島と色丹島を訪れた(http://wedge.ismedia.jp/articles/-/13870)。最初の印象は、根室から肉眼で見ることもできる近い島なのに、大変遺憾ながら、遠い島と感じてしまった。北方領土と日本には時差が2時間もある。ロシアは世界一番大きな国で、国内に11の時間帯があるので、ロシアの感覚ではおかしくないのだが*1、日本人にとって2時間の時差は心理的距離を強く感じさせる。

 ロシアの実効支配が進む現地では、同様に人々も日本に対して心理的距離があり、複雑な思いを抱いているようだ。後編では、それらの現地の人々の本音、返還に関する思い、そして日本として北方領土に対して何を行っていくべきか、などについて考えていく。

北方領土の現地の人たちは、日本への返還についてどのように考えているのだろうか(撮影:筆者、以下同)

ビザなし交流は無駄ではない

 ビザなし交流では、返還問題など政治的な話をすることはタブーである。しかし、様々な折に、返還に対する現地ロシア人の感情や雰囲気を感じることができた。決して日本にとって喜ばしい状況ではなかったが、あえて記しておきたいと思う。

 ビザなし交流は1992年から2017年までで、その枠組みにおいて日本人2万3651人が北方領土を訪問し、ロシア人1万305人が日本を訪問した。北方領土のロシア人の人口が1万6000人程度であること、健康に問題がある者や子供は訪問対象者から外されることを考えれば、現地ロシア人のほとんどが日本を訪問したかのような錯覚に陥るが、実は、日本に一度も行ったことがない人がかなりいる一方、1人で複数回、ひどいケースであると10回以上訪問したという者もいるのである。

 しかも、訪問回数が多い者については、買い物目的で訪日をしたがるケースも多いという。どうやら、日本への訪問のチャンスは平等に与えられているわけではなく、例えば、前篇の注で記したギドロストロイ社のアレクサンドル・ヴェルホフスキーに代表される、島の有力者と関係がある者は優遇されやすいとも聞いた。

 このように日本側から見ると、ロシアからいいように利用されているようにも見えるビザなし交流であるが、筆者は決して無駄だとは思わない。まず、ビザなし交流に対する現地の人々の評判は極めて良かった。また、ロシア人の患者が、根室、中標津、札幌で治療を受けて来たこと、ロシア人医師が日本の病院で研修を受けたりしてロシア人医師の技術が上がっていることなども、高く評価、感謝されていた。ビザなし交流で、日本が北方領土に強い気持ちを持っていることを示しつつ、ロシア人と心を通わせていくことは、北方領土返還への扉を開け続けることになると思うのだ。

*1:米国やカナダなども国内時差があるが、国内にこれほど多くの時間帯を持つのはロシアだけである。なお、中国も大きな国だが、国内に時差はなく、これは政治的な思惑によるという。ウクライナ領であったクリミアが、ロシアに編入されるや、モスクワ時間に時間が変更されるなど、ロシアの国内時間にも政治的な思惑が見られる。


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