東海道新幹線の各駅で一斉に登場した「新幹線グルメ」駅弁の
米原駅版として1987年11月に生まれたJR時代の駅弁は、
琵琶湖北部の名産物を詰めた懐かしいおばあちゃんの味を
唐草模様の風呂敷に包んだ、あたたかみのある駅弁。
年4回変わるおこわで季節感も演出してくれる。
真夏へ向かう時期に何を書いているのかと思うが、米原は雪が似合う。東海道新幹線は基本的に温暖な土地を走るから、車内から富士山その他遠景の雪こそ眺められるものの、平地の雪は年に何度も見られない。しかし冬場の米原は、たいてい雪の中である。東京から新大阪までの二時間半の中で、ねずみ色の空と白色の土地は、車窓のアクセントとなる。
大陸から吹き付ける冷たい季節風が、暖かな対馬海流が流れ込む日本海でたっぷりの湯気を吸い、本州日本海側へ市街地としては世界有数の豪雪をもたらす。その風は標高千メートル級あるいはそれ以上の山脈を超えるととたんに乾いて、本州太平洋側ないし瀬戸内海へ連日の好天を与える。冬場の旅に欠かせない知識である。
ところが、内陸部に日本最大の水面を広げる琵琶湖は、日本海とせいぜい20キロメートルしか離れておらず、峠の標高も700メートル程度に留まる。この弱点を乾き切らない季節風が突き、冬の琵琶湖は日本海側と同じような雪景色に染まる。琵琶湖の東岸に市街と鉄道を抱える米原も染まる。季節風が強まれば、雪は関ヶ原を越えて岐阜や名古屋へ至り、あるいは大津から京の都へと至る。そうなると新幹線は徐行運転を行い、白さを増した車窓をより長く眺めさせてくれる。
唐草模様の風呂敷に湖北の名産を詰め込んで
そんな所にある米原駅で、一番の人気を得ている名物駅弁が、1987(昭和62)年11月生まれの「湖北のおはなし」である。竹すだれの容器が唐草模様の風呂敷に包まれる、見るからに雰囲気が良さそうな駅弁である。中身は半分がおこわ、残る半分が滋賀県の湖北地方の名産物を詰め込んだというおかずとなっている。
鴨ローストには粒こしょうが貼り付き、クセを消して香味を添える。玉子焼は出汁がたっぷりで柔らかく、金色の色彩をおかずに与える。鶏肉のくわ焼きも小粒ながら味と香りと締まりがしっかりしている。小芋やコンニャクなどの煮物が心地良く、赤かぶやネギと厚揚げのぬたが田舎の味を出す。おかずの各種が仕切りもなく折り重なる姿が賑やかな、滋賀県の湖北地方の名産物を詰め込んだ幕の内弁当である。
普通の御飯のようにあっさりしたおこわは、今の夏の時期はえだ豆おこわである。これが秋になると栗おこわ、冬には黒豆おこわ、春になれば山菜おこわに変わり、視覚と味覚で季節を演じる。