その要因となっているのが、石油価格に準拠した値決めだ。日本のLNGは、石油代替の火力発電燃料だった歴史的な経緯から、現在も石油価格に準拠している。しかし、今では火力発電用燃料として天然ガスと競合関係にあるのは石炭と原子力であるため、石油価格に準拠させることに合理性はない。また、石油に比べて市場規模の小さいLNG市場には、実需取引のみで投機マネーが入る余地がない。それにもかかわらず、石油に連動しているため、その影響を受けてしまうという側面もある。
現時点で日本のLNG価格は百万BTU当たり13ドル。同じ石油価格準拠の価格決定方式であるにもかかわらず、欧州では10ドル程度だ(欧州の価格が安いのは、パイプラインとLNG、二つの供給源があるからだ)。需給で値決めされる米国にいたっては4ドル台だ。
これからは、中東やインドネシアなど既存供給者との長期契約を更新するだけはなく、スポット取引を増やすことや、豪州やカナダ・米国など新規参入者からの購入、さらには自主権益の確保を組み合わせて賢く買っていかなければならない。こうすることで、バイニングパワーを強化していくしかない。
電力会社がこのまま高値掴みのLNG購入を漫然と続けていけば、電力料金のさらなる値上がりを招く可能性もあり、その影響をまともに被ることになる日本の製造業にとっては大きな打撃となる。
億万長者生む シェールガス革命
米国では、いま空前の天然ガスブームが到来している。技術進歩によって取り出すことの難しかった頁岩(シェール)にあるガスを取り出せるようになった。これが、シェールガス革命と呼ばれている。
技術進歩の中身を簡単に説明すると、3つのポイントがある。(1)シェールガスは、岩盤に薄く広く堆積しているため、垂直に坑井を入れるだけでは、効率良く採取できなかったが、いったん垂直に掘ったあと、「L字型」に曲げて水平方向に掘ることができるようになった。(2)掘削したあとポリマーを混入させた水を高圧で注入してシェール層を破砕し、微細な割れ目を網目状に作る。(3)破砕を進めていく過程で生じる微細振動を精密な地震計で計測することで、破砕を正確にコントロールできるようになった。
こうした技術の組み合わせで、シェールガスの生産が商業化したのは、2005年。成功させたのは、ミッチェルエナジー社(Mitchell Energy)というベンチャー企業だ。はじめは、「商業化は無理」と手を出さなかったオイルメジャーも焦って参入する形となった。例えば09年末、エクソンモービルは410億ドル(約4兆円)で、シェールガス生産技術を持つXTO社を買収した。
テキサスで始まった生産は、一気に全米に広がった。日本や欧州では土地の所有者が地下資源を掘り出すことは認められていないが、アメリカでは地下資源も地主が所有権を持つ。地主は採掘業者と契約して生産した対価を受け取ることができるため、ゴールドラッシュさながらに開発が進み、いく人もの億万長者が誕生した。
急速に開発が進む一方で、環境問題の影響も懸念されるようになった。テキサスなどのように人口密度が低く、水道を河川水から引く地域とは対象的に、東部のニューヨーク州などでは、人口密度が高く、地下水を水道に使っていた。このため、掘削時に使う薬品などまじった泥水が、水道に混じったという実害が報告されるようになった。ただ、調査の結果、地中での掘削によって地下水に混ざったのではなく、掘削後に地表に回収した圧入水を溜めておくプールの管理が杜撰で、地中にしみ込んだということが判明した。このような調査を経て、7月1日に規制強化案が出されたが、ニューヨーク州のシェールガス堆積層の80%強は、操業安全規制を強化することで採掘することが可能だという結果になった。