トランプは9月17日、中国に対し、既に実施した中国製品500億ドル相当への関税賦課に加え、新たに中国製品2000億ドル相当への関税賦課の用意があると表明した。中国政府は、米国製品600億ドル相当に報復関税を賦課すると既に述べている。米中の関税戦争は拡大している。
トランプ政権の中国製品に対する関税の賦課は、中国がサイバー攻撃などで不当に米国の技術を窃取したことへの報復であると説明しているが、このような米国の対中関税賦課政策には、2つの大きな疑問点がある。
1つは、中国の技術の進展が主として米国の技術の不法窃取にあると考えている点である。中国がサイバー攻撃でどの程度の米国の技術を窃取したかは明らかではないが、中国が技術革新推進のため、研究開発に多額の出費をしているなど、官民をあげて努力していることは事実であり、中国の先端技術の発展が主として米国の技術の不法窃取の結果であると考えるのは誤りであろう。
第2は、中国の技術の不法窃取を関税で是正できると考える点である。トランプ政権は、中国による技術の不法窃取の方法として、サイバー攻撃の他に、中国に進出した米国企業に対する技術移転の強要などを挙げている。関税の賦課はこれらをやめさせようとして中国に圧力を加える手段と考えられている。
中国による技術の不法窃取は、単に米国のみならず日本や欧州にとっても関心事である。これを是正させるためには、日米欧が歩調を合わせて、例えば WTOを利用するなど対策を取るべきであろう。
トランプ政権はここにきて、「中国製造2025」を、先端産業で米国に挑戦するものとして警戒している。「中国製造2025」は、中国政府がIT、ロボットなど10分野を重点産業に指定し、金融、財政、税制面から支援し、中国建国100周年の2049年に、世界トップクラスの製造強国になるという計画である。
米国家通商会議委員長のピーター・ナヴァロは、3月にブルームバーグのテレビ番組で、関税の焦点は「中国製造2025」の産業である、中国は未来のすべての産業を支配しようとしている、と述べ、「中国製造2025」を厳しく非難するとともに、関税賦課の理由に「中国製造2025」を挙げている。ナヴァロは通商代表のライトハイザーと共にトランプ政権の対中強硬派で、対中関税賦課の中心人物と見られている。
トランプ政権は「中国製造2025」を非難するのみならず、計画の撤回を要求しているようである。中国とのハイテク分野での覇権争いを強く意識していることは明らかである。しかし、「中国製造 2025」に圧力を加えるために関税を利用するというのはお門違いだろう。
米国の技術革新のすそ野は広い。いたずらに「中国製造 2025」を警戒するのではなく、もっと自信を持っていいのではないか。
米中の貿易戦争自体については、米中双方とも譲歩する気配を見せておらず、当分の間、全面戦争の様相を呈すると思われる。
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