中国問題研究の第一人者の一人、ミンシン・ペイ(米クレアモント・マッケナ大学教授)が、現在激化している米中貿易摩擦の背景には、米国の対中政策の重大な変化、すなわち長年続いた関与政策の終焉があるとして、3つのシナリオを考察し、米中が長期的対立摩擦に向かっているという見通しは動かないと分析している。Project Syndicateのサイトに6月6日付けで掲載された、同論説の要旨は次の通り。
米中貿易摩擦の裏には、数十年続いた米国の対中関与政策の終焉がある。過去5年間、米中関係は根本的に変わった。米国はまだ新たな対中政策を定式化できていないが、方向性は明確だ。中国を修正主義勢力と見て、インド太平洋地域で中国が米国に取って代わろうとする努力に対抗する、ということだ。
最近の米国の、貿易黒字削減要求などの対中経済政策の裏には、そうした戦略的目標がある。中国は、短期的には破滅的な貿易戦争を避け得るかもしれないが、長期的には、米中関係は戦略的摩擦のエスカレートに特徴づけられるとになろう。中国封じ込めが米外交政策の原理となり、双方とも経済的相互依存を戦略的に受け入れがたい負担とみるだろう。
経済的結びつきが切れてしまえば、米中では地政学的競争を自制する理由がはるかに小さくなる。核保有国である米中が「熱い戦争」をするとは考え難いが、軍拡競争、代理戦争の拡散などにより世界を不安定化させることになろう。
良いニュースは、米中ともこのような危険でコストのかかる冷戦を望んでいないようであるということだ。このシナリオでは、経済的関与は徐々に弱まるが完全には切れず、両国は関係維持のインセンティヴを失わない。軍事的優位と同盟国の拡大を追求する一方、代理戦争のようなことはしない。こうした摩擦であれば、両国が規律、情報、戦略的思考のリーダーシップを持つ限り管理可能であるが、トランプの移り気な対中政策は、彼が戦略的ビジョンも外交的素養も持ち合わせていないことを示している。
これは、少なくとも短期的には米中関係は、経済的・外交的摩擦が頻発し、時おり協力的な動きも出る、といったものになることを意味する。このシナリオでは、摩擦は、戦略的調和なしに、他の問題とは別に個別的に解決されるので、米中の緊張は続くだろう。
進行中の経済摩擦の帰趨にかかわらず、米中は長期的摩擦に向かっていると思われる。それがいかなる形態をとるにせよ、両国、アジア、世界の安定に高いコストを強いることになる。
出典:Minxin Pei ,‘The Shape of Sino-American Conflict’(Project Syndicate, June 6, 2018)
https://www.project-syndicate.org/commentary/us-china-trade-war-strategic-conflict-by-minxin-pei-2018-06