出遅れる日本
日本では、まだMaaSオペレーターと呼べるものは登場していません。日立製作所とJR東日本が「各種モビリティサービスの利用をワンストップ化」するRingo Passというスマホアプリによる実証実験を開始すると発表しました(9月4日)。まだ、モニター企業の従業員限定のサービスですが、Ringo Passは、(1)各種モビリティサービス(シェアサイクル、タクシー)を検索する機能、(2)Suicaをモビリティサービスの鍵として利用する機能、(3)QRコードによる決済機能の3つの機能を備えているそうです。
利用できるサービスは、ドコモのバイクシェアリングと、国際自動車のタクシーの配車サービスで、公共交通を含めたルート案内の機能は未対応のようです。身近な買い物客や旅行者の交通の利便性を向上する(プレスリリース)には、しばらく時間がかかりそうです。
ルート案内のスマホアプリは、日本での移動に欠かせないものになりました。各社とも機能やサポートするサービスを充実させています。最新のGoogleマップのスマホアプリも、ルート案内の機能が強化されて、自動車と公共交通、そして徒歩を組み合わせたルート提案と案内ができるようになりました。タクシーのルートを選択するとジャパン・タクシーの配車アプリが起動されます。彼等がMaaSオペレーターに名乗りをあげるのでしょうか。
ライドヘイリングが公共交通から客を奪う
マサチューセッツ州の公的機関(MAPC)が発表した、ボストンにおけるライドヘイリングサービスのユーザー調査(2018年2月)は、ライドヘイリングサービスが、公共交通から客を奪い、交通量を増加させていると報告しています。
ユーザーの42%が、これまで公共交通を使っていた移動にライドヘイリングサービスを利用したと回答し、12%が徒歩や自転車の代わりに利用したと回答しています。そして、ライドヘイリングサービスによる移動の15%が、朝と夕方のラッシュアワーに自動車を増やしているという結果となっています。LyftもUberも公共交通との共存を標榜していますが、自社サービスの収益化との矛盾を抱えています。
LyftとUberは共に、 最近注目を集めているマイクロモビリティ(5マイル未満の移動)サービスに参入するために、それぞれ電動自転車のMotivate、電動キックスクーターのJUMPというシェアリングサービスのベンチャー企業を買収しました。
オープンなMaaSプラットフォームを事業として展開するMaaS Globalや、行政サービスとして推進するロサンゼルス市などのMaaSオペレーターに対して、LyftとUberは、モビリティサービスを囲い込んで複数のサービスを提供するマルチプロバイダーを目指しているようです。
イノベーションには破壊がつきものです。しかし、結果的に交通問題や環境問題を助長したり、新たな社会問題を生んでしまうのであれば、事業者が利益を得ても社会にとってはマイナスです。また、地域ごとに抱える問題も異なります。ヘルシンキやロサンゼルスのように、地方の行政の積極的な関与がなければ、住民や旅行者にとって価値のあるMaaSを実現して、交通問題や環境問題を解決することはできないでしょう。
オープンなMaaSプラットフォームが用意されれば、その地域に不足している新たなモビリティサービスを提供しようとする事業者も現れるでしょう。公共交通が衰退した地方の交通弱者や、免許を返納した高齢者のためのモビリティサービスの実現も行政の課題です。それには、自動運転の無人タクシーなどのモビリティサービスが必要かもしれません。
トヨタとソフトバンクの新会社MONETでは、まず、ユーザーの需要に合わせてジャスト・イン・タイムに配車が行える「地域連携型オンデマンド交通」「企業向けシャトルサービス」などを、全国の自治体や企業向けに展開していくとのことです。
e-Palette(イーパレット) という自動運転の次世代電気自動車を使ったサービスは少し先(2025年ごろ)になるようですが、それまでにも、MaaSによるモビリティの大きな変化がありそうです。
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