母が逝き家裁と手が切れた
弁護士Mからは詫び状が
百沢力の母トシ子は、成年後見制度に翻弄され続ける息子を、認知症の身でどのように見ていたのだろうか。施設を幾つか移り2006年に百沢夫妻が居住する都心の特別養護老人ホームに入所した。ここで約10年暮らし、16年5月26日に老衰のため永眠した。享年85。遺言公正証書が作成されていたため、トシ子が指名していた遺言執行者の弁護士の手で、百沢力への約8000万円の遺産相続はスムーズに執り行われた。ようやく家裁とも手が切れた。
それから半年余りが過ぎた16年12月、百沢に弁護士Mからの書簡が届いた。その抜粋は次の通りだ。
弁護士 M【押印】
この度は故百沢トシ子の申告漏れにつき、貴殿にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げます。現時点で判明した損害については、貴殿の指摘により、譲渡所得税の延滞税を振込させて頂きました。なお住民税については、今のところ延滞税の請求はなされておりませんが、もし請求があればお支払致します。…(中略)…最後になりこのようなことになり残念です――
これより先、遺産約8000万円の相続手続を終えた百沢に、税務署から238万4200円の納税督促が舞い込んだ。前年末にトシ子名義の最後の不動産である福島県いわき市の土地を売却していたが、それに伴うトシ子の納税義務の年度替わり期限の履行を金庫番だった弁護士Mが怠っていたのだ。百沢が納付すると、今度は延滞税4万100円の請求が届いた。これも百沢が12月1日に代納した。
弁護士Mの書簡は、適法手続き(デュープロセス)を果たせず代納という迷惑を掛けたという過失についての詫び状である。その書き出しが「故百沢トシ子の申告漏れにつき」だ。子息に宛てた手紙で母堂に言及するならば、敬称を付すのが最低限の礼儀であり、申告漏れはトシ子の失敗ではない。「故百沢トシ子様の納税申告に際して、小職による遺漏ゆえに未納となり」とでも書き改めてこそ、正確な事実経過が伝わる。家裁が選任し擁護した弁護士Mには、社会常識の習得も求められるようだ。
司法公務員は国民のために働こう
安易な家計介入は禁物
百沢力の14年に及んだ成年後見人体験をたどってみて痛感したのは、まず、司法公務員は、民主主義社会において国民の税金から禄を得ているのであり、国民のために働かねばならない、ということ。次に、成年後見人が被後見人の財産管理と身上監護を担いやすい環境をつくり、被後見人が安堵の日々を送れるよう手助けするのが、後見制度においての司法の役割であり、少なくとも邪魔をしてはならない、ということだ。いずれも当たり前の話である。
だが現実は、老母を看取り、債務も片付けねばならない百沢が支援を求めた家裁は、勝手に選んだ弁護士に丸投げして百沢の金銭支出を締め上げさせた揚げ句、その報酬に、百沢が最終的に得た約8000万円の遺産の約5%に当たる400万余円を母の財産から弁護士に与えたのである。理不尽に百沢が心身の不調を訴えたり、借金苦で首が回らなくなったりして、身上監護もできなくなったら、被後見人の母はどうなっていたことか。
百沢力の場合、司法幹部公務員経験者である公証人が署名押印した遺言公正証書で、母の財産と負債の全ての相続を保証されているのである。成年後見人として母の出納を代行していて仮に過分に費消すれば、将来の相続分が減ることは百沢が自覚している。かねて訴訟も体験して弁護士の知己もいる人物であり、野放図な金遣いに走るとは思えない。