中東を読み解く

2018年10月21日

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「コンセンサス政治」の崩壊

 サウジは1932年の建国以来、数々の危機に直面してきた。第3代のファイサル国王が甥の王子に暗殺される事件もあった。国際テロ組織アルカイダによる2001年の米中枢同時テロ「9・11」の実行犯グループはサウジアラビア人で、米国から厳しい非難を浴びた。

 しかし、こうした危機に際し、サウド王家は内部の意見の相違を克服し、結束して乗り越えてきた。「コンセンサスによる解決システム」が働いてきたのである。外交にしても目立たないことを重んじ、水面下で豊富なオイルマネーを使って影響力を行使するやり方を好んできた。それ故、“小切手外交”と陰口を叩かれることもあった。

 だが、ムハンマド皇太子が実権を掌握してからその伝統は一変した。内政では経済改革を進める一方で、敵対勢力を弾圧、自分のライバルになるような王子たちから権力を奪った。ムハンマド・ナエフ前皇太子はいまだ軟禁状態にあり、財産も没収されたと報じられている。

 アブドラ前国王の息子たちもリヤド州知事や国家警備相などの要職から追放された。2017年11月には汚職を理由に、王族も含め富裕な有力者ら200人が拘束された。多くの王族が逮捕を恐れて外国生活を送っている。外交でも、対イラン強硬路線、イエメンへの軍事介入、カタールとの断交など力による政策を進めた。

 こうした皇太子への権力集中と独裁的手法により、王家内部には強い反発が生まれ、不満がうっ積、「コンセンサス政治」は完全に崩壊した。9・11以来の国家的危機になった今回の事件では、王族が協力し合って対処するという雰囲気はない。自ら蒔いた種とはいえ、ムハンマド皇太子に味方は少ない。

 皇太子が危機を乗り越えられるかどうかは結局のところ、トランプ政権にかかっている。ムハンマド皇太子と親密な関係を築いているクシュナー上級顧問は大統領に皇太子を見限らないよう説得しているとされる。トランプ大統領が損得を天秤にかけ、皇太子をあくまでも守るのか、それとも距離を置くのか。決断が下されるのは遠い話ではない。

  
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