名門校、未来への学び

2018年11月1日

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鈴木隆祐 (すずき・りゅうすけ)

ジャーナリスト

1966年長野県生まれ。法政大学文学部在学中より出版社で雑誌編集を始め、その後フリーに。著書に『名門高校人脈』(光文社新書)、『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)ほか。

読書会の遊びの中で創造力を養った

 岡さんも当初は理系だったが、法学部に進みたいと文転した。数学や物理はそもそも得意で、雑誌『大学への数学』は取り続けたという。優れた広告は感覚的であると同時に、極めて論理的だ。岡チームが制作するCMにはそんな通奏低音が響いている。

 「でも、英語がさっぱりダメで、試験に出てきたスージーおばさん(Aunt Susie)をずっとアリ(ant)だと思い込んでたほど(笑)。そこは小田嶋なんかビートルズが好きで、歌詞も暗唱してるから、なんとかなるんだよ。当時夢中になったのが、読書会仲間との文体模写ごっこ。一週間ごとに作家を変え、そっくりの文体で作品とは関係ないことを銘々で書くの。当時、埴谷雄高とか高橋和巳なんかガンガン読んでたから、乗り移るんだよ(笑)。でも、いつも小田嶋には負けた。唯一文学部に行く資格ありと思ってたから、まさか早稲田も教育学部に進むとは思わなかったけどね」

 このいわゆるパスティーシュ、広告作りに限らず、商業的表現の基本のような気がする。オルタナティブな完全オリジナルでは、受け手に慣れもなく、ほとんど通用しないのだ。大衆の既視感から微妙にずらし、新たな領分を築いていく。その努力が広告を進歩させてきた。

 「作家ごとに好む漢字ってある。それらを駆使すれば、『三島、来てるね〜』ってなる。賞金がないとつまらないから、500円ずつ出し合った。いつも小田嶋が3000円総獲りだったな。まあ、それは別の形で巻き上げたけどね(笑)」

 中学時代は野球部のエースで4番、成績も学年トップだったという岡さん。だから小石川にも合格できたのだが、父親の仕事の関係で転々とし、優等生である自分に拘泥した結果でもあった—と振り返る。

 「それが小石川では、同じように学年で1番みたいなヤツらの集まりでしょう。成績も下から数えたほうが早かった。膨らんだ自我を叩きのめされた感があった。だから、高校は失われたいろんな部分を作り直す場だった。精いっぱい学問的粉飾もしてね(笑)。初めてそこで友達ができたんだと思う」

 そして、岡さんが小石川で「再構築した自我」は以降、揺るぎないものとなった。自身の仕事での羅針盤もそこで得たからこそ、岡さんは高校時代の思い出をこれだけ豊かに語れるのだろう。学校には本来、それだけの力が宿っているのだ。

【岡康道プロフィール】
1956年佐賀県嬉野市出まれ、東京育ち。都立小石川高校を経て、80年早稲田大学法学部卒。同年電通に入社、営業局に配属。85年にクリエイティブ局へ異動。99年7月、CDとして川口清勝(AD)、多田琢(CMプランナー)、麻生哲朗(同)の4名と日本初の広告制作に特化したチーム「TUGBOAT」を設立。TCCの他、ADC、LONDON D&AD会員。その他の主な作品に「ペプシ桃太郎シリーズ」(サントリー)、「1UPシリーズ」(住友生命)、「Style’20キャンペーン」(NTTドコモ)など。クリエイター・オブ・ザ・イヤー、ADC賞、TCC最高賞、ACC金賞他受賞多数。著書に『アイデアの直前』(河出書房新社)、小説『夏の果て』など。

Wedge11月号「名門校、未来への学び」では、現在の小石川中等教育学校で活躍する生徒たちを紹介し、同校の魅力を紹介しています。

◆Wedge2018年11月号より

  
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